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■ Science
"Scale Errors Offer Evidence for a Perception-Action Dissociation Early in Life."
これはおもしろい。二歳ぐらいの子供が、人形用の小さい椅子に座ろうとしたり、ミニチュアの滑り台を滑ろうとする。つまり、このぐらいの年齢の子供はそのミニチュアが椅子や滑り台であることがわかった上(identification)で、本物の椅子や滑り台のときに行う行動(action)を選択し、しかもそのミニチュアの椅子や滑り台の大きさに合わせて行動しようとしている(motor control)、ということだ。論より証拠、supplementary materialにビデオのファイルがあるので、それを見たほうが早い。子供がブロックを小さい穴に入れようと延々やってるのと同じっちゃあ同じだが、道具の使用というニュアンスがもっと強い。
私には五歳と三歳の子供がいるのだが、この現象には気付かなかった。愛する妻に聞いてみたところ、このあいだ下の子がまさに小さいおもちゃの椅子に座ろうと一生懸命だったのを見たらしい。この現象でScienceに論文が載っていることを知らせると、知っていたのにー、と残念がった。(私たち夫婦は「伊藤家の食卓」に出せるネタはないものかと探しては、これ知ってたのにー、と繰り返していた。) そう、こういうちょっとしたところに重大な発見がある。私の今までの子育て経験を振り返ればなんかヒントがあるのかもしれないのだ。ひねり出してみよう、たとえば:子供が父親と母親を混同して呼びかけるのはよくあることだが、あれってなんだろう。小学生になっても先生のことをお母さん、とか呼んで恥をかいたりするわけだが。で、子供がそうなるのはよくあるのだが、そうしてるとなぜか、親の方も上の子と下の子を混同して呼んだりする。目の前には上の子がいるのに、下の子の名で呼んだりする。これってなんだろ。
なんにしろ子育ては、だんだん視力が上がってくることや、記憶力が上がってくること、片言が出るようになること、会話に文法構造が出てくることなど、いちいちおもしろい。いま下の子はどんな前のことも「きのう鈴鹿サーキット行ったよね」とすべて昨日だったりする。彼女にとって過去の出来事は時系列順に並んでいない(recency judgementができない)のかもしれないし、時系列に並んでいるのだけれどもそれを区別して指し示すことが出来ないだけ(言語の問題)なのかもしれないが。
でもって元の論文に戻ると、このことのどういう点が重要か:そこで以前にもとりあげたGoodaleの説が出てくる。Goodaleは視覚野のV1->V2->V4->ITといった視覚のventral pathwayが視覚認知(および視覚意識)に専門化されていて、V1->V2->MT->posterior parietal cortexといった視覚のdorsal pathwayが視覚に基づいて行動に専門化されており、この両者はある程度独立して処理されているという説を提出し、脳の局所障害のある患者さんについての研究(neurology)でこの二つが独立して障害されることを根拠とした。この考えをさらに展開させたScott GloverはTrends in Cognitive Sciences '02 "Visual illusions affect planning but not control."においてさらに行動のplannningと実際の行動のcontrolとの乖離について解説している。で、今回の著者はこの二つの考えを合わせて、今回の論文で見られた現象は、ventral pathwayでの行動のplannningとdorsal pathwayでの行動のcontrolとがうまく協調していないことによって起こる、と説明している。この点が今回のたった一つの発見に意義をもたせる重要な点だ。
5/16へつづく。
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- / 投稿日: 2004年05月15日
- / カテゴリー: [腹側視覚路と背側視覚路]
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# ガヤ
解説ありがとうございます。こういうのを見ると「(科学的)発見とは何か」を純粋に考えてしまいますね。スンクスが吐くのだってもっと以前から知られていたわけで(汗)失礼。。。まあ、ようは「問題意識」があるかないかなんでしょうね。だってパッチやったことがある人だったらsEPSPの出方には特定のパターンがありそうだというのは誰でも感づいていますから。でも、それの「重要性」に気づかないだけなんですね。
# pooneilうん、その点語るに足るネタですね。セレンディピティは準備したもののところにだけ来るわけですが、特に今回の論文はその素朴さにおいて際立ってます。そういうのって心理学の面白いところな気がする。ラマチャンドランの平面なのに出っ張って見えるillusion(Nature ’88 ”Perception of shape from shading” 参考webサイト:http://www.psycho.hes.kyushu-u.ac.jp/~mitsudo/shading/shading.html)があったけど、たったあれだけで[人間はdefaultの条件で上から光が当たっているように見なすおよび一つの光源のみから影が出来ていると見なすことで認知を作り上げている]ということを示してしまうわけで、素朴であればあるほどすごい気がする。