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■ Blindsightでの弁別能は刺激提示の繰り返しによって向上する

PNAS "Increased sensitivity after repeated stimulation of residual spatial channels in blindsight" Arash Sahraie et.al.で、Lawrence Weiskrantzが自分でcontributeしたもの。
V1に損傷があってscotomaがある患者さん11人のデータで、scotoma内のある位置にgratingを提示して、二択の弁別課題(gratingがtaskの前半に出たか、後半に出たかを報告するtemporalな二択)トレーニングというかリハビリというかを3ヶ月繰り返したところ、scotoma内のgratingの弁別能が上がった、というもの。しかも、トレーニング中に正解だったかどうかのフィードバックは与えていないから、これはあくまで刺激提示の繰り返しによるのであって(blindsightの場合、明確なawarenessがないのでこれを「経験による」と言ってよいかどうかはわからない)、residual visionのわずかな手がかりをフィードバックと対応づけて強化した、ということではありません。また、scotomaの中で練習していない部分の弁別能はこのトレーニングによっては向上しない。だから、このトレーニング効果はretinotopicalに特異性があると言えます。
これまでにもscotomaの端っこの方でトレーニングするとscotomaが小さくなるというような話はありますが、今回の話はそれがscotomaの真ん中でも起こるし、しかも正解だったかどうかのフィードバックを与えなくても弁別能が向上する、という点が新しいです。
さて、しかしこれはblindsightか。Fig.1上段で出てくる、トレーニング途中の例は明確にtype I blindsightであると言ってよいと思います。しかし、populationデータを扱っているfig.2-4はどうも変です。というのも、この課題を行うときに被験者はgratingがtaskの前半に出たか、後半に出たかの弁別を報告するだけでなく、そのgratingが見えたかどうか、awarenessを報告します。だから、たとえば50%のtrialでawarenessがあって、残り50%は推測で答えたとしても弁別課題の成績は75%になります(*注へ)。ですので、弁別能が75%でawarenessの報告が50%だったとしたら、弁別能とawarenessの報告とのあいだに乖離は見られません。つまりblindsightではない、ということです。そういう目でfig.3を見ると、どのcontrastでも、トレーニングの前でも後でも、弁別能とawarenessの報告とのあいだに乖離はありません。よって私が示したようなcriteriaでは、この論文は全体としてはblindsightを扱ったstudyであるとは言えません。
ただ、ここでのawarenessの評価はbinaryであって、なにかがあるかんじ、のようなものでもawarenessありに判定されています("only if they had no awareness whatsoever of the visual stimulus")。一方でscotomaの範囲を決定するときにはHumphrey Visual Field Analyserを使った検出課題を用いて、いちばん明るい刺激を提示しても刺激の存在を検出できなかったところ、としていますので、これは上記のawarenessの報告とは違った基準であって、検出能がより少なく見積もられています。そういう観点からは、今回のstudyはHumphrey Visual Field Analyserで検出能なし、と判定されたところなのに、チャンスレベル以上で弁別ができている、という点でblindsightであると言うことは可能です。ちょっと甘くするならば。
なんにしろ、awarenessの評価は検出課題と基本的に同等ですので、signal detection theoryでいうところのbiasの影響をもろに受けます。つまり、被験者がawarenessがあったかどうかを決める基準が厳しければawarenessのあるtrialは増えるし、逆も真。この問題を明示的に扱おうとするためにこそsignal detection theoryが使われるわけです。
なお、この問題(弁別能とawarenessの報告の乖離があるかどうか)についてはWeiskrantzは90年代後半に患者G.Y.さんを被験者にした論文をいくつか出して議論しています。たとえば、"Parameters Affecting Conscious Versus Unconscious Visual Discrimination with Damage to the Visual Cortex (V1)" L Weiskrantz, JL Barbur and A Sahraieなど。そういうわけで、私としてはこの論文および前報のEuropean Journal of Neuroscience 2003 "Spatial channels of visual processing in cortical blindness" Arash Sahraie et.al.で、患者G.Y.さん以外でのpopulation dataが出てくることを期待して読んだのですが、それには答えてもらえませんでした。(この件については20051027のエントリで言及しております。)

(*注: なお、このような考え方は素朴で実感にマッチしますが、これはhigh-threshold modelと言われるもので、signal detection theoryが仮定するような、decision signalにgaussian noiseが加わったものを想定していません。)


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