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■ SFNレポートのつづき

646.2 "TWO-PHOTON CALCIUM IMAGING OF VISUAL CORTEX: ORIENTATION MAPS WITH SINGLE-CELL RESOLUTION" Clay Reidラボ。これは間違いなくすごい。おめでとうございます(1stの方とは同じラボ出身です)。
In vivoでtwo-photonを使うことで、catおよびratでの初期視覚野のorientation mapをイメージングしました。以前からoptical imagingによってintrisic signalやvoltage-sensitive dyeでの膜電位変化測定によって初期視覚野に方位をコードするようなマップがあることが示されています。つまり、たとえば2mm * 2mmの皮質の中で縦棒にいちばん強く反応するニューロンのある領域から斜め45度、そして横棒に反応する領域、というふうになだらかに繋がってまた縦棒に反応する領域まで繋がるような方位地図が初期視覚野にはあります。ほかにも右目からの入力に反応する領域と左眼からの入力に反応する領域とが交互にモザイク状に見える眼優位性マップもありますし、網膜上のどの位置での刺激に反応するかが連続的に表現されているretinotopicマップ、といったいろんな視覚情報の属性が初期視覚野の表面に重ね書きされてマップ(写像)されているわけです。しかしこの2mm * 2mmの領域の中には無数のニューロンがあるわけで、これまでの技術では個々のニューロンの活動ではなくて、それを空間的に平均したような活動としてしか見ることができませんでした。そのような平均的活動と個々のニューロンとを対応付けるためにこれまではoptical imagingをしながらsingle unit recordingをする、とかそういうことをやっていたわけです(たとえば、pinwheel centerでのニューロン活動を記録したScience '97 "Orientation Selectivity in Pinwheel Centers in Cat Striate Cortex" Bonhoeffer)。でも、いちばんいいのは、見たいところの全部のニューロンの活動をモニターすることであるのに決まっているわけです。んで、平瀬さんのセミナー関連でも話題になりましたが、In vivoでtwo-photonを使うことで、生きている個体での脳の情報処理を個々の細胞での活動がわかるような形でモニターする、ということの将来性と可能性に注目していたわけです。私は以前(8/9)こんなふうに書きました、おそらくこれはもう競争であろう、他の方法論で見たものを追試しました、からtwo-photonでなければ見れないものが出てくるまではあと5年はかかるでしょうか、それとも2年で出てくるでしょうか、と。しかしこんなに早く出てきてしまいました。
内容説明を:麻酔下でいろんな方位の視覚刺激を呈示して初期視覚野でのCa動態をtwo photonでイメージングすることで300micron * 300 micron程度の広さの領域の個々のニューロンでのCa動態を調べることで、個々のニューロンの方位選択性を調べたのです。すると、optical imagingで見た方位マップと同様なパターンで個々のニューロンがその位置ごとにある方位をコードしているものから違った方位をコードしているものへと移行してゆくのが見られた、というわけです。
はじめ見たときにはある意味optical imagingの再現だから、もっとこの方法ならではのものを見るためにはと考えていくつか質問(pinwheel centerから記録してないのかとか)したりもしたのですが、ガヤ含む他の皆さんの反応を見て、すでに十分インパクトのある仕事であるのは間違いないと思い直しました。今まで見ていたoptical imagingのマップが個々のニューロンのどういう反応からできているかをみた人などいなかったのですから。けっこう揃っているんだな、というのが印象でした。Interneuronはどのくらいイメージングできているのか、とか個々のtuning width自体はどのくらい違うのだろうか、とか聞きたいことはたくさんありますが、もうこれは論文になってどんどん出てくることでしょう。
それにしてもすごい。このすごさの一端は、in vivoで個々のニューロン測定するには脳の拍動などの動きの問題を解決しなければならないわけですが、optical imagingと違ってtwo photonではニューロン一個分のズレが起こったらもうイメージングのデータは台無しなわけですから、そのへんはかなりシビアなはずで、そこを克服した点にあると思います。それにしても、方位マップを作ることができるということは、眼優位性マップだろうとretinotopic mapだろうと作れてしまうわけです。もうこれはそのへん独走できてしまうのではないでしょうか。Intrinsic signalやVSDによるoptical imagingもこうなると廃業ではないでしょうか。もちろん、optical imagingの全てがすぐのり越えられるわけではないでしょう。Optical imagingでは5mm * 8mmとかかなり広い領域のマップを作れるわけですし、前述のmotion artifactの問題からして、Grinvaldとかがやっているin vivoのawakeのbehaving animalでのoptical imagingの成功というアドバンテージはしばらくは残ることでしょう。また、Caイメージングなので、VSDほどには速い応答を取ることはできません。8/9のryasudaさんのコメントにもあるように、VSD使ってtwo photonというのは難しいようですし。
しかし、時代はここまで来てしまいました。fMRIだってはじめは1Tもないような磁場のマシンをつかっていたのに技術のスタンダード化とマシンの普及とによってどんどん高磁場のマシンができて、より詳細なマッピングが可能になっていきました。同様にしていくつかの点でtwo photonでのスキャニングに関しても進歩が見られることでしょう。来年のSFNではこのへんがどっと出てくるはずです。現在のfMRIによる研究のような盛況になる日が来るかどうかはわかりませんが、behaving animalでの応用、個々の細胞ではなくて細胞内動態を調べる方向性、caged試薬による刺激との組み合わせ、いろんな可能性があります。
ちなみにin vivo two photonで哺乳類で、というあたりで検索すると:

あたり。このうち、functional organizationと結びついていると言えるのはArthur Konnerthでのwhisker stimulationですが、これよりも今回の発表はずっとインパクトがあると思います。(追記:ryasudaさんのコメントにもあるように、このへんはもう少し歴史を遡って確認しておく必要がありそうです。)
追記:というわけでリストを補充しておきます。
ryasudaさんご指摘のKarel Svobodaの一連の仕事:
などなど(Natureのみ選択)。それからkkitaさんによる追加分:
どうもありがとうございます。追記ここまで。
脳機能の解明においての究極は脳(と脊髄と末梢)の全てのニューロンの記録をモニターする、というものですが(この仮想的状態は、そのときに私たちは使えるコーディングとデコーディングのアルゴリズムを持っているだろうか、とかそのときに私たちはその個体を取り巻く環境と環境と個体との相互作用とを全て命題化することができるのであろうか、といった問題とカップルしているのですが)、まだまだそれにはずっと遠いにしても、それへの第一歩であるということは言えると思うのです。

コメントする (10)
# ryasuda

こんにちは。In vivo 2-photon Calcium imaging といえば、Svoboda K, Denk W, KleinFeld D, Tan DW 1997, Nature385:161-5を忘れずに! Sharp electrodeで刺しています。今回のSFNではHelmchenのところで、awakeのdendritic calcium をかなり一生懸命みてましたね。2-photonで1このspineでさえ追えるわけで、細胞レベルではpulsationはあまり問題にならないのでは?

# pooneil

あー、なるほど、そういう意味では、私のほうはin vivo two-photonでの機能イメージング(多ニューロンからの同時記録)に気が行っていたけれど、in vivo two-photonで細胞内のCa動態を調べるような研究はすでに長い歴史があるということですね。Ratのbarrelでの応答の機能イメージングという意味でもArthur KonnerthのPNASがいちばん最初なわけでもないですしね。ご指摘ありがとうございます。もう少しそのへん整理して踏まえておく必要がありそうです。

# kkita

はじめまして。Reidグループのやつは、本当にすごいです!特に、最後のFigureのCatのdirection mapには、感動しました。方位カラム(というのかな?)がわずか20ミクロンくらい(すなわち1〜2個の細胞)のオーバーラップだけできっちり分かれているというのが、画像ではっきり見えてましたね!Dendriteのオーバーラップはそれ以上あるだろうに、どうなってるのか境界にある細胞にパッチしてみたい!あそこまで行ってたらあとはやるだけ(!)なのでそのうち面白いことがどんどん出てくるでしょうね。自分でやってみたいくらいです。in vivoのtwo-photonイメージングの仕事としては、Ryoheiさんが挙げておられるSvobodaらの一連の仕事の他に、Margrie et al., Neuron, 39, 911?918 (2003) Waters et al., J Neurosci. 23(24):8558?8567 (2003)Hasan et al., PLoS Biol. 2(6):763 (2004)などがあります。in vivoのtwo-photon imagingは全体として、まだまだ手法の開発だけにとどまってる仕事が多いですが、これから面白いことがたくさん出てくると思います。ではでは、これからもよろしくお願いします。

# ryasuda

kkitaさん、あの絵は私も仰天しました。しかも、あの境界の細胞は2つきれいにdirection sensitivityがあるんですね。

# pooneil

kkitaさん、論文の追加どうもありがとうございます。SFNではお会いできませんでしたね。「Dendriteのオーバーラップはそれ以上あるだろうに」「わずか20ミクロンくらいのオーバーラップ」このへん不思議だしいろいろ興味はありますが、そのへん時間の問題でどんどんアウトプットとして出てくることでしょう。論文として出てくるのがほんとうに楽しみです。ryasudaさん、おもしろいですよね。Orientation(0-180deg)とdirection(0-360deg)のマップとをどう重ね合わせるか考えると、あるorientationをコードする領域がそのorientationとはorthogonalな二方向のdirectionをコードするものに分かれるということで、理にかなってますしね(Cerebral Cortex ’03 ”The Spatial Pattern of Response Magnitude and Selectivity for Orientation and Direction in Cat Visual Cortex”)。ああ、このへんもっと勉強しなければ。

# OK

pooneilさん、お久しぶりです(といってもSan Diego以来)。kkitaさん、ryasudaさん、takashiさんの飲み会ではあまりお話する機会がなくて残念でした。みょうに、2p関係者の多い飲み会でしたね(takashiさんのせいか)。励ましのお言葉ありがとうございます。ちなみに、CreyではなくてClay(粘土)です。

# OK

脳の拍動はやはり問題です。マウス、ラットなどでは、特に何もしなくても拍動は1um以下なのでspineまで見えるのですが、ネコの場合は、普通にやると10um以上動いてしまいます。しかしながらこの問題は、ネコからvivo patchをしているグループの間では解決済みの問題で、気胸および背骨吊り等の処置で、2um以下くらいに抑えられます。Spineも見ることが可能です。

# go-in-kyo

OKさん,大変ご無沙汰しております.なるほど.そうだったのですか.ところでhigh frequency oscillatory ventilationなんてつかっていたりしているひとはいますか?(単に高くて面倒なだけかもしれませんが)

# OK

うちでも購入計画はありますが、まだ予算がついていません。

# pooneil

おお! OKさん、ようこそいらっしゃいました。どうもありがとうございます。SFNではほとんどお話できなくて残念でした。ポスターも大混雑で入り込めなかったので、2nd author(インド系の人)にあれこれ聞いてました。恥ずかしながらずっとCreyだと思ってました(過去の日記でもずっと誤記してたので直しました)。どうも失礼しました。ポスター内容の説明に関しても勘違いなどあるかもしれませんので、必要に応じてご指摘ください。たとえば、自分のコメントを読みなおしてみると、orientation mapとdirection mapとどっちだったかごっちゃにしてるところがありますが、ポスターに出してたデータ自体は8方向のdirectionに対する応答だったということでよろしいですよね?


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