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■ Chronostasis

我々は平均して一秒に三回目をきょろきょろさせる動き(サッケード)を行っております。しかしそのサッケードのときに我々の網膜にはかなりすごい速さでの動きが写っているはずなのですが、我々はサッケード時の網膜像の動きで気持ちが悪くなったりはしません。これはいくつかのメカニズムによって脳が達成していることがわかっています。

  1. サッケードが起こっているときの網膜像を脳に送らないようにゲートする、"saccadic suppression"。
  2. サッケード前の知覚像とサッケード後の知覚像とをシームレスにつなぐためにsaccadic suppressionによる空白を時間的、および空間的に"filling-in"(充填)してしまう。(盲点の空白は空間的に充填されてしまっていることを思い起こすとよいでしょう。)
この二つがあります。1のsaccadic suppressionについては今回はとりあげません。
2のうちの時間的なfillin-inがchronostasisというillusionを起こしていると考えられています。これについてはHaggard and Rothwellが研究しつづけています。
一方、2のうちの空間的なfillin-inはMorroneがさかんに研究しつづけています。
2の時間的なillusion(Chronostasis)の説明については森山和道氏の北澤先生へのインタビューページを参照してください。私なりに書いてみますと、時計の秒針が動いているのをどっか別のところをいったん見てから、ぱっと目を動かしてまた時計の秒針を見てみてください。すると、見た瞬間の秒針が一瞬止まったように見えないですか? これはつまり人間の脳の働きでして、秒針に目を動かしたときに入ってきた画像が目を動かすのにかかる時間(50msとか)だけさかのぼって続いていたように脳が解釈しなおしてやる、ということによって起こるillusionなのです。
一方、2の空間的なillusionでは、saccadeしている途中で光点をフラッシュさせると、その光点の位置がsaccadeの行き先に近づくようにずれて知覚する、というものです。つまり、saccadeの途中で一時的に、我々の空間像はそのsaccadeの行き先に向かって縮んだように変化するのです。
また、これらについてのニューロンメカニズムとして、Duhamel and GoldbergのScience '92のLIPでのpresaccadic remapping、および以前も言及したTirin MooreのScience '99でのV4でのアナログがありますが、これからもっといろいろ出てくることでしょう。
それでは2の両者に関する論文をまとめましょう。
続く。

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# 藤田昌彦

"saccadic suppression"の説明ですが,もしこれがVolkmann (1978) に基づくものなら,論文に記載された通りに,彼女の用いた刺激は極めてコントラストの低いものです.この抑制は存在しても極めて弱く,これで日常生活の"saccadic suppression"は説明できません.Saccade最中も視覚像は脳に伝わっており,むしろマスキングに基づくsaccadic omissionという説が確かだと考えます.
F. W. Campbell, and R. H. Wurtz: “Saccadic omission: why we do not see a grey-out during a saccadic eye movement.”, Vision Res, 18, 10, pp. 1297-1303 (1978)

# pooneil

生理研の吉田です。コメントどうもありがとうございます。最新のエントリ(20080721)に転載させていただきました。そちらでコメントも作成しております。


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