« Science "Intersubject Synchronization" | 最新のページに戻る | 内部モデルまとめagain »

■ アフォーダンスと遠心性コピー

Correggioさんへの返答を書いた際にまとめたこと(2)を加筆して以下に。(02:26加筆)

オートポイエーシスでも当てはまる話なんだけれども、家元とその継承者との間で概念がずれてくるようなときには、その概念がどう形成されたかに立ち戻って考えるべき、という立場を私は取っている。つまり、この点においては私は原理主義者であり、ギブソン自体の考えに基づいて考えよう(べき)だと思う。その点で「ギブソン心理学の核心 」(勁草書房)は非常に参考になると思う。

(アフォーダンス概念からの帰結として、)「アフォーダンスは、生理学的メカニズムや情報処理論に言及していない。 アフォーダンスは、「動物の環境との関係に関する記述」であって「認識のメカニズムの記述」ではない。したがって「生理学的メカニズムや情報処理モデルと合わないから」という理由でギブソンの理論を否定するのは筋違いである。」(「ギブソン心理学の核心 」(勁草書房)p.160)

また、ギブソン自身は

「環境の知覚が直接的だと主張するときには、それが網膜的画像、神経的画像あるいは心的画像によって仲介されてはいないという意味である。」(「生態学的視覚論」p.161)

という風に書く。ギブソン心理学は現象学的なアプローチを目指したゲシュタルト心理学の末裔であり、根っこは認知主義および表象主義そしてDavid Marr的な考えへの批判である。たぶん(ナイサーとずっと批判しあってたわけだし)。で、そんなに詳しくない私から見ても、アフォーダンスをニューラルネットワーク中のモジュールのように扱うのはどうにもおかしいことのように思える。

それで、そのようなアフォーダンスをどうやってArbibは認知科学と結び付けているのだろう、というのが私の疑問。Neural Networks '98では、「IPやF5やITから来た情報からAIPが抽出する」という感じに使っている。Arbibはけっしてナイーブな書き方(たとえば、情報を統合する、とか)をしてはいないのだが、けっきょくのところ、それだとまんま情報を表象していることになると思うのだけれど、それでよいのか? 情報そのものでよいのか? いや、定義的には、「事物が情報をaffordしている」ということになるのは確かなのだが、「直接知覚」の考えからすれば、アフォーダンスを脳が属性を分析して統合する形でどっかのニューロンが表象している、なんてことはありえないのではないか? それとも、行動に直結した形で、属性として分解されない形で処理されればよいのか? アフォーダンスはピックアップされるものなので、「ピックアップする」というある種の能動的な作用のneural correlateを探す、というのなら脳とアフォーダンスを結びつけるというのはありかもしれない。でもそれですら本当にいいんだろうか、私はまだ納得してない。

追記: ギブソンが見出したoptical flowは認知科学の中に簡単に取り込むことができた。MSTのニューロンがoptical flowをコードしている、ということもわかっている。それはたぶんギブソンの本意ではなかっただろうけど、この概念はそれだけ切り取って使うということがしやすい。しかし、アフォーダンスに関してはそうはいかないのではないだろうか。ギブソンがアフォーダンスという概念を使い出したのは、それを使うことによって、有機体と環境との関係からなる知覚を現象学的に記述するため(この点でオートポイエーシスと相通ずるものがある)であって、感覚運動変換の理論を唱えたかったわけではないのだから。(さすがに知ったかぶりしすぎか。)

アフォーダンスは行動する前から事物にあるのではない。行動してはじめてそのアフォーダンスがあった、と事後的にわかることになる。たぶん、何度同じことをしようが、その一回一回ごとにしか事物のアフォーダンスは現れないし、そのような形でアフォーダンスが現れるようでなければならない。その意味でもオートポイエーシスが作動しているときのみに作動の関係によって規定されるのとよく似ていて、センスには近いものを感じる。

なんつーか、アフォーダンスを記述するときには脳が見えなくなるし、脳を記述するときにはアフォーダンスが見えなくなる、という形の説明になってたらいいのかもしれないなと思う。

コメントする (2)
# Correggio

「なんつーか、アフォーダンスを記述するときには脳が見えなくなるし、脳を記述するときにはアフォーダンスが見えなくなる、という形の説明になってたらいいのかもしれないなと思う。」といってしまうと我々生理学者は,出る幕はなくなってしまう?

# pooneil

Correggioさん、それでも出る幕はなくならないと思ってます。続きは3/14に書きました。


お勧めエントリ


月別過去ログ