[月別過去ログ] 2020年08月

« 2020年07月 | 最新のページに戻る | 2020年09月 »

2020年08月06日

盲視にipRGCsは関わっているか? アップデート2020

2012年の記事になるけど、「盲視に関わるMPKチャネルの経路」という記事で、内因性光感受性網膜神経節細胞ipRGCsが盲視に関わるかどうかについて言及したことがある。

つまり、ipRGCsって元々はnon-image-forming vision、たとえば視野全体の光量の違いによって瞳孔反射が起こるとか、そういうのにしか関わってないと思われてた。

でもこちらの論文が出て、ipRGCしかないマウス(錐体、桿体はノックアウトされてる)でも縞模様とただの灰色(どちらも視野全体での光量は同じ)を区別できる、つまりipRGCはimage-forming visionにも関わっているということが提唱されるようになった。

それで、それ以降の研究の進展をフォローしてなかったので、調べてみた。

こちらで、ちょうど2014年以降の新しい論文がリストされてる。みたところ、ipRGCだけを選択的に刺激して、錐体、桿体は刺激しないような視覚刺激を使ってその応答を見るという研究が増えてる模様。

(S錐体についても、S-cone isolating stimuliというのが使われてた。あれと同じアプローチか。)

こちらではそのような刺激条件でマウスdLGNの20%の細胞が活動する、つまりipRGCからの入力を受けているという話になってる。これは意外というか、上記の記事で書いたように、ipRGCはLGNを経由せずに、上丘や視床枕に直接入力するから、盲視に関わる可能性があるかもと思っていたのだけど、もっとふつうにLGNにも入力しているらしい。

あと、同じ刺激をヒトに提示した実験があって、ipRGCはヒトでの色知覚にも貢献しているらしい。

しかし「ipRGCだけを選択的に刺激」というタイプの研究は、網膜の細胞の個人差を考慮した厳密な実験条件が必要で、そのうえでも、微妙なズレが効いているのではないかという疑いが消えないので、個人的には信用してない。(S-cone isolating stimuliのときにそれを痛感したので。)

というわけで、盲視にipRGCsが関わっているか?についてはあまり大きな進捗はないようなのだけど、このネタ、マーモセットでも使えるようにはしておきたいなと思った。


お勧めエントリ

  • 細胞外電極はなにを見ているか(1) 20080727 (2) リニューアル版 20081107
  • 総説 長期記憶の脳内メカニズム 20100909
  • 駒場講義2013 「意識の科学的研究 - 盲視を起点に」20130626
  • 駒場講義2012レジメ 意識と注意の脳内メカニズム(1) 注意 20121010 (2) 意識 20121011
  • 視覚、注意、言語で3*2の背側、腹側経路説 20140119
  • 脳科学辞典の項目書いた 「盲視」 20130407
  • 脳科学辞典の項目書いた 「気づき」 20130228
  • 脳科学辞典の項目書いた 「サリエンシー」 20121224
  • 脳科学辞典の項目書いた 「マイクロサッケード」 20121227
  • 盲視でおこる「なにかあるかんじ」 20110126
  • DKL色空間についてまとめ 20090113
  • 科学基礎論学会 秋の研究例会 ワークショップ「意識の神経科学と神経現象学」レジメ 20131102
  • ギャラガー&ザハヴィ『現象学的な心』合評会レジメ 20130628
  • Marrのrepresentationとprocessをベイトソン流に解釈する (1) 20100317 (2) 20100317
  • 半側空間無視と同名半盲とは区別できるか?(1) 20080220 (2) 半側空間無視の原因部位は? 20080221
  • MarrのVisionの最初と最後だけを読む 20071213

月別過去ログ


« 2020年07月 | 最新のページに戻る | 2020年09月 »