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2018年01月23日

「平衡電位になっても細胞内Kイオン濃度は減らない」って話

以前のブログ記事「静止膜電位はどうやってできるの?」で書いたように、(たとえば)Kイオンが平衡電位に達するためにKチャネルを流れるイオンの量は非常に小さいので、細胞内のKイオン濃度には影響しない。デルコミンの「ニューロンの生物学」p.91に実際に計算してあるのを見つけたので引き写しておく。

直径 の細胞があるとして、細胞内のKイオン濃度は , 細胞外は となっている。このとき

細胞内のKイオンの総数 = 細胞体積( ) * Kのモル数( ) * アボガドロ数(

いっぽうで細胞膜の静電容量 なので、細胞内電位がKの平衡電位である に帯電させるために必要な電気量は あたりで となる。

この細胞の表面積は なので、必要な電気量は となる。

これをKイオンの個数に変換するためにはファラデー定数とアボガドロ数をつかって 膜を移動するKイオンの総数 / ファラデー定数( ) * アボガドロ数(

よって[細胞内のKイオンの総数]に対する[膜を移動するKイオンの総数]の比率は となる。つまり100万分の1程度しか細胞内Kイオンは流出しないので、無視できる量であると考えられる。


でもこの話には続きがある。イオンの流入が神経細胞の体積からしたら微々たるものってのは本当だけど、スパイン内の局所領域の は影響受けるかもしれない。また、細胞外間隙は考えられているよりもずっと狭く、 はアストロサイトでの取り込みとかと合わせて調節されているはずだ。

上記の計算をスパイン内の局所領域について考えてみることにしよう。スパインの体積は河西研のサイトより、 くらいで揺らいでいるとのことなので、ざっくり直径 の球で近似してみる。

さっきの計算との相対値だけで済まそう。球の直径は から へと になった。[細胞内のKイオンの総数]には体積で効いてくるから になる。[膜を移動するKイオンの総数]には表面積で効いてくるから になる。

ということは[細胞内のKイオンの総数]に対する[膜を移動するKイオンの総数]の比率 倍になって 程度となる。というわけで細胞体全体よりは影響が大きくなったけど、まだ5千分の1で済んでいると言えそう。


のほうについてはどうだろうか?

ここ最近の進展を調べてみたら、"Potassium diffusive coupling in neural networks"って総説を見つけた。ざっくり要旨から推測するに、 のオシレーションが海馬の近接する神経細胞の活動同期に関わっているという話で、なるほどさもありなん。

神経細胞のネットワークはシナプス伝達や活動電位によってできた正確なデジタルの論理演算機なんかではなくて、こういうアナログな漏れ出しに影響を受け、進化の過程でそれを活用するようなmessyな解法に依存しているんだ、みたいな話は好き。


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