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■ episodic memory and semantic memory
さんざん言及したわりにはTulvingについてまだ書いてなかった。Tulvingによるepisodic memoryの最新の定義(annual review of psychology '02)を書いておきましょう。
Annual Review of Psychology '02 "EPISODIC MEMORY: From Mind to Brain."
Episodic memory is a ... past-oriented memory system, ..., and probably unique to humans. It makes possible mental time travel through subjective time, from the present to the past, thus allowing one to re-experience, through autonoetic awareness, one's own previous experiences. ... Retrieving information from episodic memory (remembering or conscious recollection) is contingent on the establishment of a special mental set, dubbed spisodic "retrieval mode". ... The essence of episodic memory lies in the conjunction of three concepts --- self, autonoetic awareness and subjectively sensed time.
簡潔でないし。なんかだらだらと言葉を使うので定義がぜんぜん操作的でないんですよね。
1983年の"elements of episodic memory"(手元に邦訳の「タルヴィングの記憶理論」1985年あり)、1972年の"Episodic and semantic memory." Endel Tulving. In E.Tulving & W. Donaldson (Eds.), Organization of memory.についての差分も必要でしょう。
しかし、「タルヴィングの記憶理論」を読んでも1972年の定義には問題があったと繰り返すばかりで、では1983年の定義はどうなのか、というのがかっちりと書かれていないんです(私が見逃しているだけかもしれないけど)。
なお、1972年の定義は明確です。
"Episodic memory receives and stores information about temporally dated episodes or events, and temporal-spatial relations among these events."
"Semantic memory ... is a mental thesaurus, organized knowledge a person possesses about words and other verbal symbols, their meaning and referents ..."
Annual ReviewでのK.C.さんについての症例報告についても抜き書きしてまとめます。Kapurのやつと重なるけどこっちのほうが詳しいし。
K.C.は1951年に生まれ、30歳のときにオートバイ事故でclosed head inuryにみまわれ(損傷部位はさまざまで、内側側頭葉を含む)重篤な健忘症となる。K.C.の認知能力は正常(そもそもこれは健忘症の定義からしてそうなのだが)で、健常人と見分けがつくことはなかった。K.C.の知能と言語能力も正常で、読み書きにはまったく問題がなかった。集中力と注意を保つ能力も正常だった。思考プロセスも明確だった。オルガンを弾いたり、チェスをしたり、いろんなカードゲームをすることができる。視覚的にものを思い浮かべる能力も正常だった。
自分の人生に関する客観的な事実についてたくさん知っていた。たとえば誕生日、9歳まで済んでいた家の住所、通っていた学校の名前、所有していた車の型と色、両親が別荘を所有していたこと、今も所有していること、どこにその別荘があるかを知っていて、オンタリオの地図のどこかを示すことができる。トロントの彼の家から別荘までどのくらいの距離あるかも知っていて、週末にそこまで行くにはどのくらい時間がかかるかも知っていた。彼自身がそこに何度も行ったことも知っていた。
他の典型的な健忘症患者と同様、K.C.は自分の生活世界から新規の一般的な情報を拾い上げることができなかったし、今過ぎ去りつつある経験を想起することもできなかった。私的経験と意味的情報の両方について重篤な前向性健忘があった。しかし逆向性健忘についてはとても非対象的であり、「私的に経験した出来事」について想起することがまったくできなかった(その出来事が一回きりのものでも、繰り返されたものでも)一方で、世界に関する一般的知識は他の同じくらいの教育レベルの人たちとはそんなに変わってはいなかった。
……
彼のエピソード記憶の健忘は人生の全て、生まれてから現在までにわたっていて、ただの例外は今から1、2分までの出来事だけだった。
……
彼は…以前の出来事に関してfamiliarityを感じるということすら認めなかった。
……
彼の記憶欠損は過去だけではなくて、未来にもわたっていた。彼は質問者に対して今日これから何をするかをいうことができなかったし、明日何するか、これからの人生何をするか、についても言うことができなかった。彼は自分の過去について想起できないのと同じくらいに自分の将来について想像することもできなかったのだ。
彼が示したこの症候はautonoetic consciousnessが機能する時間感覚は過去だけでなく未来にもわたっているのだということを示唆している。
(p.13-14)
このあと、K.C.が疾患の発生後にsemantic knowledgeを獲得することを示したあとで、同様な例を二つ挙げています。どちらも前述。
- Kitchener et alのBrain '98("Acquisition of post-morbid vocabulary and semantic facts in the absence of episodic memory.")の患者R.S.さんで同様にepisoidic memoryが失われているのに新たにvocabularyとsemantic factを獲得しています。
- Vargha-Khadem et alのScience '97("Differential Effects of Early Hippocampal Pathology on Episodic and Semantic Memory.")でのdevelopmental amnesiaでの例。
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- / 投稿日: 2004年11月30日
- / カテゴリー: [大学院講義「記憶の脳内機構」]
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