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■ 生理研研究会ハイライト

生理研研究会ぶじ終了しました。
アンケートページオープンしてます。参加者の方ぜひ感想送ってください。記憶が薄れぬうちにぜひ。
こちらから:生理研研究会webサイト

そう言ってる私の記憶がどんどん薄れてきているのですけど、研究会のディスカッションでナイスなやりとりがあったので記録しておきます。物議を醸しているようですが、私はあそこで起こったこと全部に満足です。それぞれのやりとりでそれぞれがどう考えたかも重要ですが、あのやりとりを見たオーディエンスに対してインパクトを与えることに成功したと思うんです。そこが大事。

記憶を頼りにして書いているんで、間違いがある場合はご指摘いただければ幸いです。つーかやっぱustreamとか使えるようにして、俺じゃなくて誰か若い人が文面書き起こしてアップしてくれる、みたいなそんな展開でいけるようにしたいなあ。

それでかいつまんで書きますと、磯田さんの講演のあとで池上さんが指定討論者として質問を始めたところでナイスなバトルが展開したんですが、ざっくり言うと、磯田さんと池上さんでやりとりしていて、池上さんから、ここで見ているものは自己なのか? 静的な状況を見ていて自己がわかるのか? 条件の引き算だけでほんとうにわかったことになるのか? といった疑問が提示されて、磯田さんから、これだけで答えが出るとは思っていないけれども、自己・他者の処理の一部を捉えていることは間違いない、という応答をしてさらに話が止まらなくなっているところへ筒井さんが加わって、磯田さんの仕事は神経生理としてたいへんきれいなデータで素晴らしい仕事なのにそこがわかってない、という擁護があって、池上さんから、磯田さんの仕事自体を否定するつもりはない、しかしこのような神経生理学的方法だけで先に行けるのか疑問だ、という話があって、そこへ國吉さんが、池上さんの話をパラフレーズして池上さんはどうしたら自己・他者のシステムを作れるのかという構築主義的立場からものを言っているということを理解してほしい、という話があって、そこへ吉田が池上さんの話はneural correlate批判と自己の定義の二つの論点があって、自己の定義の方は神経生理学内で対処可能な問題だって話をして、藤井さんが今のようなやりとりで神経生理学者が自分の正当性の中に閉じこもるようなやり方はとても良くない(あとは藤井さんのブログ参照)という話をして、ところでなんで俺は説教してるんだっけ、池上さんが悪いんだな、と藤井さんが笑いを取って険悪な空気は払拭しつつ終了した、 というのが顛末です。

私は全体としていい議論だったと思うし、名前隠す必要ないと思うんでイニシャルトークにはしてません。嫌な人はもちろん言ってもらえれば消しますので。

それでこの話、いろんな方向から読み解けるのだけれど、ひとつコンテキストを付けておくと、まさにこういうバトルを展開したくて村田さんと吉田とで磯田さんのトークに池上さんが指定討論者をしてもらう、という組み合わせにしたんです。(池上さん呼んだのは村田さんの発案。) ツイッターでのやりとりですけど、

alltbl @pooneil #ascone 横やりですいません。意識の問題だと、どうしても、マッピング問題でいいのか、ということと、システムは自動ロボットだ、ということを避けて通れないと思うのですが、どうなんでしょう。こないだAndy とも議論になったけど。
alltbl #ascone  僕が学生なら、脳の物理的な状態や回路と、意識のある状態を結びつけても、それは説明になるのか、ということ。それがマッピング問題ですよね。
alltbl #ascone  自動ロボット問題は、そもそもシステムがいろいろ時分で決定していくような状況を考えないなら、意識なんて問題にならない。そういう人工システムはまだつくられていない
pooneil まったく同意します。今日こんなこと書きました:http://bit.ly/b23Bjf RT @alltbl: #ascone 意識の問題だと、どうしても、マッピング問題でいいのか、ということと、システムは自動ロボットだ、ということを避けて通れない
pooneil .@alltbl: さきほどのMarrの話に関しても、マッピング問題でやってることと、Marrの工学的アプローチとの関係を明確にしたいと思ってのことなのです。ただ問題は二段階あると私は思っていて、マッピング問題は意識だけにかかわらず、他の概念、自己と他者であっても問題になる…
pooneil .@alltbl: つまり、表象を捉えるだけで終わっていて、その表象を操作する「プロセス」(=統語論)じたいがぜんぜんなされていない、というのが現段階での第一の問題であると考えております。そのうえで記号接地問題で問題とされるような意識特有の第二の問題が出てくる、と考えています。
pooneil .@alltbl: ですので、生理研研究会で私が池上さんに神経生理の磯田さんの指定討論者になっていただくことで期待していたことの一つは、こういったマッピング問題の指摘でした。ゆえに、それはきっと神経生理学者全般に突き刺さると書いたのです。http://bit.ly/bxOdTL
alltbl @pooneil ありがとうございます。ご期待に添えるよう頑張ります。しかし、問題は脳の内部で解決できる問題ではないですよ。ぼくは、maximalismを宣言します。

とこんなかんじだったわけです。そういうわけで池上さんがマッピング問題(neural correlate問題)と自動ロボット問題を出してくださってこういう展開になったときは私は座長をしながらガッツポーズを取ったんです。ただ一つ予想外だったのはじつは会場にあまり神経生理学者がいなかった! あの場には居合わせておくべきだったと思いますよ。

以下私の解釈だけど、磯田さんの受け答えは神経生理学者としてはまっとうな答えだったと思うけど、ちょっとプロテクティブだったと思う。だからあそこで筒井さんが、磯田さんの仕事がいい仕事であることを強調してくれたことは良かった。そうでないとオーディエンスにあの仕事の価値がわからずじまいだったと思し、池上さんから磯田さんの仕事自体が悪いと言いたいわけではない、といった言明を引き出してくれたのもよかった。そのうえで國吉さんが池上さんのめちゃ独特な表現をパラフレーズして説明してくれて、これは神経生理学的パラダイムと構築主義的パラダイムとの衝突なんだってことを説明してくれた。わたしが言おうとしていたことは自動ロボット問題に対応させて、もっと不確定性の生まれる状況を作ってテストができるという可能性を示唆した。時間的に藤井さんのコメントで最後ってことにしたので、あの喧嘩を買う人がいなかったってのはちょっと残念だけど、たぶんどっかでまた続くはず。

そのあと懇親会で池上さんと磯田さんとけっこう長く話をした。池上さんの発言はいろいろ印象深かったんで書いておくと、なんでもneural correlateで捉えてしまうminimalismは謙虚なようであってじつは傲慢なのであって、だからこそmaximalismなのだ、out-and-out constructingなのだ、とまた独特なフレーズで言われたんだけど同じフレーズをツイッタでも使ってたからこんどはついていけた(これはいわば構築主義のマニフェストなのだ)。僕がその話でインスパイヤされて、なるほど、じつはほぼあらゆることにneural correlateは見つけられてしまうし、そういう作業仮説(これこそクリックのastounishing hypothesisそのもの)でやってきたんだけど、その万能さ自体が首を絞めてるのかもしれない、なんて話をした。

それから、池上さんは熱力学の話をもってきて、熱の概念が個々の分子というレベルではなくてその統計的性質というのにたどり着くまでに熱素の概念を考えるといった回り道があったことを例えとして、説明の階層のレベルがほんとうにニューロンの活動で正しいのかどうかは自明でないこと、そして、そういった説明ができなくなるようなところでサイエンスをやるべきだと主張した。これはつまりクーンのパラダイム論の通常科学と革命的科学の後者の話だ。それを受けてわたしが言ったのは、なるほどそういうsingularityを探せということならば、たとえばSUAでの限界はどこか考えるといいのかもしれない(ここでさっきのneural correlateの万能性の問題と繋がる)、たとえば意識、それからエピソード記憶のような一回性の現象にneural correlateという概念はそぐわない、こういうところがsingularityと言えるんではないか、なんて話をした。「エピソード記憶にneural correlateはない」ってフレーズは池上さん気に入ってくれたようだ。

alltbl エピソディック・メモリーにもNCCはない。だったら、どこにCがみられるのか。いやいや、Cはみるのはやめて、デザインしましょうということ。

まあとにかくいろいろあったんだけれど、この議論はまだこれからも続くと思うんで、だんだん考えを育ててゆきたい。あと、今回の研究会は生理研という神経生理学がホームで構築主義がアウェイの場所だったはずなんだけど、逆にしても面白かったはず。

まあそんなわけ。繰り返し言うけど、これは私の方から見た解釈。補足が必要だと思った方はコメント欄に書いてください。今週末ASCONEがあって準備が必要なんでしばらくここは放置しておく予定です。ではまた。


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