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■ 意志決定の曖昧さ6(最終回)

さて、研究会予習シリーズもいよいよこれが最終回。東大先端研の渡邊克巳さんの最新の論文を読みます。

Watanabe, K. (in press) "Behavioral speed contagion: Automatic modulation of movement timing by observation of body movements." Cognition.

これまで紹介した論文よりは知覚寄りと言えるでしょう。視覚運動変換ですが。この論文では、行動のテンポというものは伝染る」(contagiousの訳として考えてみました)ということを示そうとしています。たとえば、「東京やニューヨークに在住の人はしゃべるのが速い、なぜならば忙しい環境の中で生活しているからだ」というのは本当か、ということです。

このことを示すために、注意課題とかプライミング課題とかみたいに、ある刺激を与えて、遅延時間のあとで中心窩での反応潜時課題を行います。注視点の十字の左右どちらかの枝がdimするので、どっちがdimしたかをなるたけ速く報告します。

それで、行動のテンポの変化を誘発する刺激としては、biological motionを使ってます。人間の動きのもの、コントロールとしてスクランブルしたもの、四角形が動いているように見えるものの三種類があって、さらにこれが動く周期を12.5Hz, 25Hz, 50Hzと変えています(提示時間は揃えてある)。バイオロジカルモーションのときだけ、誘発刺激の動きが速いと反応潜時が短くなる。しかもこの効果は遅延時間(SOA)が短いときだけ起こるのです。ということはvoluntaryな要素によるというよりはautomaticな効果であるわけです。

関連する論文としてあげられているのが、他者の行動を見ながら行動するときに、自分の行う行動と他者の行動とが同じタイプか違うタイプかによって、自分の行動が影響を受ける、というものです。いくつか上げられてましたが、たとえば、Current Biology Volume 13, Issue 6, 18 March 2003, Pages 522-525 "An Interference Effect of Observed Biological Movement on Action" J. M. Kilner, Y. Paulignan and S. J. Blakemoreでは、他人が腕を縦に振るか、横に振るか、を見ながら自分の腕を振ります。同じく上下に振っているときと比べて、他人が左右、自分が上下のときのほうが軌道がばらつく。しかも面白いのは他人の代わりにロボットが腕を動かしているのを見たときにはこういう効果はない。

ともあれ、こういった他者の行動を観察したことによる影響、という話はミラーニューロン関連でいろいろ行われているけれども、今回のように行動のテンポに着目したのははじめてである、というのがこのCognition論文の売りです。また、自分の行動と見ている行動とが無関係であるにもかかわらずこういう効果が出るというところが驚きであり、実際の人の動きではなく、それを抽象化したバイオロジカルモーションで効果を見ているという点でよくコントロールされています。そういう意味ではこれまでの行動観察による影響とは違ったクラスの影響であると考えたほうが良さそうです。

印象ですけど、速いスピードのgratingとか見ても、潜時が短くなったりしないもんですかね。今回の枠組みでは、四角形が動いているという条件では効果がないということで否定できているのですが。

それから、discussionでは、メカニズム的な説明として、movement observationのときにM1のbeta rhythmのmodilationが起こるという知見を引いてきて、もしかしたらこれによってM1のthresholdがmodulateされているのかもしれない、ということを書いています。

あと、最後のパラグラフでは、「老人を想起させるような語を心理テストの中にこっそり入れておくと(被験者は気づいてない)、テスト後の行動がゆっくりになる」という論文を引いています(J Pers Soc Psychol. 1996 Aug;71(2):230-44. "Automaticity of social behavior: direct effects of trait construct and stereotype-activation on action." Bargh JA, Chen M, Burrows L.)。これはたしかMalcolm Gladwellの"Blink"でも大フィーチャーされていたと思いますが、我々の行動もautomaticityを示す例として強烈な印象を与える話です。今回のCognition論文は行動に無関係な刺激が我々の行動に大きく影響を及ぼすということを、行動のテンポ、という側面から見た論文であると言えます。

さて、以上で予習は終了です。みなさまと研究会でお会いできることを楽しみにしております。それでは。


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