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■ 第一次運動野(M1)は何をコードしているか

森山さんの日記で書かれていることはかなり関係しているところで、楽しく読ませてもらってます。日本のミラーニューロン関連の研究の第一人者であるCorreggioさんとCOEシンポジウムで話したときも話題に出た、というか私が出した。というわけで関連したことを書いてみたいのだが、とりあえず「カラム」かどうかの問題はまた今度として、第一次運動野(M1)がやっていることがなんであるかどうか自体について以前(2/4)に少しとりあげたので、そこから続けてみる。
第一次運動野(M1)がやっていることがなんであるかは実はいまだcontrovercyがあるところだ。70年代の研究で、Fetz and Cheneyは[M1のニューロン(脊髄まで軸策を伸ばしている錐体細胞)の活動]と個々の筋肉の張力とが相関していることを示した。M1のニューロンは個々の筋肉、またはその組み合わせへのダイナミックな指令を出していると考えられていた。一方、Georgopoulosは80年代にM1ニューロンの集団での活動が腕などの運動の方向というもっとキネマティックなものをコードしていることを示した。以前とりあげたAndrew SchwartzはGeorgopoulosの弟子なので、大筋はこちらの位置にある。
GeorgopoulosとやっていたKalaskaはJNS '89 "A comparison of movement direction-related versus load direction-related activity in primate motor cortex, using a two-dimensional reaching task."において、二次元運動中の腕に負荷をかけてやると、M1ニューロンは運動の方向だけでなく、負荷をもコードしていることを見つけた。つまりGeorgopoulos系列はM1が運動方向のようなキネマティックなものも、筋肉への負荷のようなダイナミックなものもコードしていると認めたと言える。
川人先生は「脳の仕組み」川人光男 読売新聞社 '92において、このような二種類のM1ニューロンが層で分かれているとしてモデルを作っている。そのモデルでM1は、浅層(layer2/3)では運動の方向や関節角のようなキネマティックな量をコードしていて、それがtranscortical loopを経て小脳に行く。小脳は逆モデルを生成するところであって、キネマティックな情報から筋肉の張力のようなダイナミックな量を計算する。これがM1の深層(layer5の錐体細胞)へ帰ってきて、フィードフォワードな調節として働く。(たぶんM1カラム内でも浅層から深層への伝達でキネマティクスからダイナミクスへの変換があって、それを小脳から帰ってくるのが調節するということらしい。)そういう話らしい。しかしその後のターゲットは主に小脳であって、M1について解明をしていたかどうかは私はよくわからない。
90年代後半ぐらいになってから新しい展開が見られた。現在東北大の筧 慎治さんとPeter L. Strickとが出したScience '99 "Muscle and movement representations in the primary motor cortex."では、棒を回すタスクで持ち方を変えてみることで、筋肉の張力は同じままに間接角だけ変わる条件を作り出した。この条件でM1ニューロンから記録してわかったのは、あるものは筋肉の活動をコードしているし、またあるものは筋肉の活動とは独立に運動の方向をコードしているということだった。というわけで上記の二つの両方が程度受け入れられるような結論を見たのだった。
また、Kalaskaと一緒に仕事をしていたこともあるSTEPHEN H. SCOTT(このあいだシンポジウムに来ていたが、私よか若そうでショック)はNature '01 "Dissociation between hand motion and population vectors from neural activity in motor cortex."で、M1ニューロンの集団での活動は運動の方向よりは、肩と肘の関節のパワー(関節の角速度とトルクから計算される)によってこそ説明できる、ということを示した。
結局のところ、[運動の方向]-[関節のキネマティックな属性]-[筋肉のダイナミックな属性]という逆モデルの過程で、この三つのどれがM1でやられているか、というのが問題になりつづけていた、というわけだった。どうやら現在のところ、後ろの二つあたりと考えるのがよさそうだ。
ガヤが紹介したNeuron '02 "Complex Movements Evoked by Microstimulation of Precentral Cortex."は以上の中では、M1のあるカラムのニューロン集団が複数の筋肉の組み合わせをコードしていることについて扱っていると思われるが、これはよりカラムの概念に関わってくる話と思う。電気刺激は刺激部位の周辺には強烈な抑制を引き起こすので、あるカラムを限局して刺激したというよりはその周りのカラムへの抑制と組み合わせて考えた方がよいようにも思える。
小脳が何をやっているかといえば、川人先生の話ではまさにそういう[筋肉のダイナミックな属性]を学習した逆モデルそのものであって、運動野からの司令から小脳を通ってフィードフォワードコントロールの信号として運動野に帰ってくる、という話だった。さて、これをロボットでたとえればなんだろう? 逆モデルは外界のモデルであるがゆえに、ある種のシンボルかと言えるのかもしれない。というのが川人先生の岩波「科学」の連載での「シンボルの生成」というやつだったんだと思う。ではなぜ、運動野と独立している必要があるか、これはやっぱり、小脳の解剖学的構造が大脳の解剖学的構造とまったく違っているところに説明を求める問題であると思う。小脳での可塑性と大脳での可塑性の質的違い。それらが何を学習するのにそれぞれ適しているか。

コメントする (3)
# ガヤ

そう、刺激による側方抑制をどう扱うか。。。

# pooneil

うん、microstimulationはやっぱ解釈が難しいので、ニューロンの記録またはimagingを信頼したいと思う。

# pooneil

追記:5/27のところにGraziano and Moore論文についての記載があります。


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