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■ Science論文「霊長類側頭葉における記憶想起信号の逆行性伝播」

Scienceに論文が載る。Bossがcorresponding author、はじめの二人がequal contributionのfirst authorという形。精細はPubMedまたはScience magazineへ。

Science 2001 Jan 26;291(5504):661-664
Backward Spreading of Memory-Retrieval Signal in the Primate Temporal Cortex.
Naya Y,1* Yoshida M,2* Miyashita Y1,2,3†
1Laboratory of Cognitive Neuroscience, National Institute for Physiological Sciences, Okazaki, Aichi 444-8585, Japan., 2Mind Articulation Project, International Cooperative Research Project (ICORP), Japan Science and Technology Corporation, Yushima, Tokyo 113-0034, Japan., 3University of Tokyo School of Medicine, Hongo, Tokyo 113-0033, Japan.
* These authors contributed equally to this report.
† To whom correspondence should be addressed.
Bidirectional signaling between neocortex and limbic cortex has been hypothesized to contribute to the retrieval of long-term memory. We tested this hypothesis by comparing the time courses of perceptual and memory-retrieval signals in two neighboring areas in temporal cortex, area TE (TE) and perirhinal cortex (PRh), while monkeys were performing a visual pair-association task. Perceptual signal reached TE before PRh, confirming its forward propagation. In contrast, memory-retrieval signal appeared earlier in PRh, and TE neurons were then gradually recruited to represent the sought target. A reasonable interpretation of this finding is that the rich backward fiber projections from PRh to TE may underlie the activation of TE neurons that represent a visual object retrieved from long-term memory. 私による少し砕いた訳:長期記憶を想起するときには、大脳新皮質と大脳辺縁系との間での双方向の信号伝達が寄与している、と考えられてきた。我々はこの仮説を検証するために、視覚性対連合課題を解くサルの神経活動を記録して、側頭葉の隣接する脳部位であるTE野(新皮質)と傍嗅皮質(辺縁系)とでの知覚信号及び記憶想起信号の時間経過を比べた。図形を見たときに伝わる知覚信号は、まずTE野、それから傍嗅皮質へと順方向性に伝わっていた。一方、図形を思い出すときに伝わる記憶想起信号は、まず傍嗅皮質に先に現れ、それからTE野にだんだんと現れていった。以上の発見は、TE野のニューロンが長期記憶から想起した物体を表象するように活性化する際に、傍嗅皮質からTE野へと逆行性に投射する神経線維が関わっている、と解釈することができる。
私が別のところで書いた考察:
対想起指数(pair-recall index)は傍嗅皮質の方がTE野と比べてより早く対連合図形がコードされ始めていた。このことは、視覚情報の流れとは逆に、長期記憶から取り出された想起された図形の情報は傍嗅皮質からTE野へと伝播していることを示唆している。また、順方向の視覚情報の伝達にかかる時間が10ms程度であるのに対して、逆方向の記憶情報の伝播には350msの時間がかかっていることは注目に値する。順方向の視覚情報の伝達はフィードフォワード的な伝達の連鎖と考えられるのに対して、逆方向の記憶情報の伝播はその様式が別のものであると考えられる。おそらくここで起こっていることは、単なるフィードフォワード的な伝達の連鎖ではなくて、傍嗅皮質とTE野を含むニューラルネットワークの中で決定付けられる状態遷移のようなものであるのであろう。このような考え方は、ニューラルネットワークのモデルの研究でも、非線形的なシステムに見られるアトラクター的ダイナミクスとして扱われている。 ところで、このような逆方向性の情報の伝達の生理的意義とは何であるだろうか。Logothetisら(Sheinberg and Logothetis 1997)はマカクサルに両眼視野闘争の課題を行わせた実験によって、TE野の活動が[視覚入力そのもの]ではなく、[何が見えたか(visual awareness)]に関わっているものであることを示唆している。もし我々の実験で見られたTE野の想起過程の活動も同様にして、[これから現れる図形を思い描くこと(visual imagery)]に対応しているのであるとするならば、一方で傍嗅皮質の活動は無意識の/自動的な連想過程を表現している、というようにTE野とは役割が分かれているのかもしれない。これは記憶、表象が明示的/暗示的(意識に上るか否か)であるとはどういうことかを明らかにするのに重要な鍵となるかもしれない。 考察すべきもう一点は、今回の発見でわかったことと前頭葉の活動との関連である。記憶/想起のシステムを考えると、さらに第3のプレーヤーとして前頭葉を置いて考えることが有意義だ。以前我々グループは前頭葉から下部側頭葉へとvoluntary recallに関わるトップダウンシグナルが流れていることを報告している(Hasegawa et.al.1998及びTomita et.al. 1999)。すると、傍嗅皮質からTE野への想起信号の自動的な伝播過程は前頭葉からの自発的な想起のシグナルによってトリガーされている、という図式が考えられる。
新聞記者を前に記者会見をするという経験を生まれてはじめてした(教授の横に座っていただけだけど)。5年かかってやっとプロジェクトの成果が一つ出たといったところ。この論文の内容についてもっとわかりやすく説明した文章を書こうと思うのだが、いつのことになるやら。なお、生理研のホームページにこの論文のまとめ(日本語)があり。


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