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■ Expected valueとexpected utility
つづき。
(3) 200年後の1944年になってフォンノイマンとモルゲンシュテルンがこれを数学的に厳密な形であつかいます。つまり、5つのaxiom(completeness, transitivity, continuity, monotonicity, substitution)が満たされるかぎりにおいて、
expected utility = sum(utility of outcome(i) * probability of outcome(i) )
となるようなexpected utility functionが存在して、これを比較してどちらの選択のほうがpreferredであるかを決めることができる、というものです。逆にいえば、utility functionの計算と比較というのは5つのaxiomがvalidでないときには意味がない(かも知れない)ということです。このような定式化によって、実際の人間行動がこのaxiomを満たしていない例をあげることができるようになったわけです。
(4) この定式化はさらにSavage(1954)による"subjective expected utility"において、さらにaxiomが付け加えられ、式は実際の確率ではなくてsubjectiveな確率によって置き換えられます。
expected utility = sum(utility of outcome(i) * subjective probability of outcome(i) )
(5) フォンノイマン-モルゲンシュテルン-Savegeのaxiomが成立しない例としてAllaisのパラドックス(1953)というのがあります。それはこうです:
[A] 100万円必ずもらえる
[B] 10%の確率で500万円もらえる、89%の確率で100万円もらえる、1%の確率で0円になる
から選択するとしたらどうします? [B]はほとんどの場合は[A]と同じで、残りのうちの1/11で0円になることがある、と考えるとわざわざ危ない橋を渡るより[A]で確実にいったほうがよさそうではないですか? 期待値は[A]が100万円、[B]が139万円ですからexpected valueではなくてexpected utilityに基づいて選択しているわけです。これ自体は前述のrisk aversionの現象ですが。一方で、
[C] 11%の確率で100万円もらえる、89%の確率で0円になる
[D] 10%の確率で500万円もらえる、90%の確率で0円になる
だとしたら迷わず[D]を選ぶでしょう。期待値は[C]が11万円、[D]が50万円です
ところで[A]のexpected utilityが[B]のexpected utilityより高いことを[A]>[B]と書くとすると、axiomの五番目(substitution)を使って式変形すると[C]>[D]となって[C]を選ぶほうがexpected utility的には高いことになってしまいます。これはおかしい。
これがパラドックスです。ようするに、五番目のaxiom(substitution)が成立しないことがあることを示しているのです。だから定式化することが重要なのですな。
(6) KahnemanとTverskyのプロスペクト理論はフォンノイマン-モルゲンシュテルンの定式化とは別の方向からのアプローチです。彼らのバックグラウンドは心理学であり、不確実性がある状況で実際に人間がどのような選好を行うかの実験データを蓄積しました。そのような実験結果に基づいた実際の人間の行動のバイアスをとりこんだmodificationを加えて、予測可能性を上げたexpected utilityの定式化をした、というのが彼らのプロスペクト理論の核でして、Kahnemanがノーベル経済学賞を授与された理由でもあります。
expected utility = sum( (utility of outcome(i) - reference point) * decision weight function)
前述のrisk aversionにもあったように損のutilityの大きさ=得のutilityの大きさ*(-1)ではないわけで、valueからutilityへの変換の関数は正(得)と負(損)とでslopeが変えてあります。また、実験結果から、人間はutilityの大きさそのもので判断しているのではなくて、あるreference point(たとえば1万円の持つutility)からどのくらいずれているかで有効なutilityの大きさを評価していることがわかっており、これも取り込まれています。また、主観的確率に関しても実験結果から、われわれは確率の低い事象を過大評価し、確率の大きい事象を過小評価するというバイアスがあり、これによって確率の代わりに"decision weight function"という形で重み付けが行われます。そしてこのような定式化が実際の人間の行動を予言するのに大いに成功したというわけです。
つまり、フォンノイマン-モルゲンシュテルンの定式化はaxiomatic:公理的であるのに対して、KahnemanとTverskyの定式化はdescriptiveなものなわけで、定式化の動機が違うわけです(理想状態の定式化と実際の行動の予測)。じっさい、KahnemanとTverskyも両方のアプローチが必要であるとしています。
参考にしたサイト:
- "HET (THE HISTORY OF ECONOMIC THOUGHT WEBSITE)"
- "2002年ノーベル経済学賞 Advanced information(pdf)"
- "The von Neumann-Morgenstern Theory of Rational Choice under Uncertainty."
- "EconPort - Handbook - Decision-Making Under Uncertainty - Von Neumann-Morganstern Expected Utility."
- "EconPort - Handbook - Decision-Making Under Uncertainty - Allais Paradox Experiments."
- "EconPort - Handbook - Decision-Making Under Uncertainty - Risk Aversion."
- "Utility Theory (Syllabus Topic XII)"
- "PSYC 4135/5135 Judgment, Choice, and Decision Making Spring, 2001."
- "John Quiggin: Expected utility."
- "Cognitive Processes Lecture Notes."
- "Expected value, expected utility and multi-attribute utility theory."
- "PSY 355: Cognition."
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- / 投稿日: 2004年10月02日
- / カテゴリー: [神経経済学 (neuroeconomics)]
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