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■ Binocular rivalryおよびgeneralized flash suppression その4

前回(20070711)のエントリへの土谷さんのコメントに対して応答を書いていたら長くなったのでこちらに作りました。
ご指摘の論文の一番目はAlex MaierのPAS 2007 "Context-dependent perceptual modulation of single neurons in primate visual cortex"です。これは20070629にも書きましたように、金井さんのブログの5/28に記載があって、それを見てからわたしも論文をざっくり読んでみたのですが、どう評価したらよいものかわからなくて、前回をセミナーにはこれを入れない方向でまとめた次第です。
この論文で面白いのはFig.2bのなかに黒矢印で示してあるところで、CFG1とCFG2とで同じ向きのpreferred directionのgratingの与えられているのも関わらず、CFG1とCFG2とで違う向きのnon-preferred directionの刺激との組み合わせを使うことによってmodulationのされ方が違うのです。ただ、下の段のphysical alternationの条件を見るとこれでも差が出ているように見える。そういうわけで、なんらか二つの刺激のあいだでのselectionの過程での中間型みたいなものとして捉えた方がよいようにも思えるのです。そういうわけでこのmodulationの差の意味についてはちょっと現状では評価しがたいという印象をそのときは持ちました。
Fig.4は非常に重要な結果で、刺激の組み合わせをいくつか試してみると、MTで記録した90%以上のニューロンでmodulationが見られたということです。これはLogothetis 1998のレビューなどで使われる、V1-V2-V4/MT-ITという順番でmodulationのかかるニューロンの比率が増えてゆく、というスキームとは一見矛盾します。しかし、使われている刺激が違うので、directionに関してはMTでほぼ決着が付いているというのは驚きではありません。また、Logothetis 1989の実験では刺激はニューロンのpreferred directionによらず、上向きと下向きのgratingでした。よってmodulationの見られるニューロンの比率がunderestimateされているであろうことは明らかだったろうと思います。
今さらっと言ってしまいましたが、motion directionに関してはMTがほんとうに最終であるか、その辺についてはV1-V2-MT-MST-LIPくらいで追えると楽しいのではないかと思います。一方で、awarenessに上がってくるようなmotionの成分というやつがほんとうにdorsal pathwayのほうでV1-V2-MT-MST-LIPという方向で処理されるのでしょうか。阪大の藤田先生がdisparityに関して行っていることからのinspirationですけど、motionに関しても、形態視が必要となるsceneの分析のような過程(ventral pathwayでの処理が必要となる)でのみawarenessに上がってくるということになっていたりしないのでしょうか。これはつまりSheinberg論文にあったようなimage segmentation, perceptual groupingを越えたところにあるものに対応するのではないかと思うのですが。
連想は続きます。わたしが見ているようなある種のweakなawarenessとITで見られるようなsceneの解析まで済んだものとして捉えられるawarenessとはそういう意味でcontent of consciousnessがかなり違うのであろう、と考えています。それはtype II blindsightの患者さんがもつ"feeling of something is happening there"みたいなものと私たちが持つconsciousnessとの違いと対応しているのではないか、というわけです。このへんについては以前セミナーで作ったパワーポイントがあるのでそのうち編集してエントリにします。
話を戻します。Logothetis 1989やLeopold 1996で見られたような逆向きのmodulation (physical conditionで決めたpreferredでflashのときのmodulationが下がる)ということがあるのか、supplementaryまで見ればわかるかもしれないけど確認できませんでした。そういうのがある限り最終段階の処理ではないだろうというのが予想です。
あと、Logothetis 1989ではphysical conditionではmodulationが起こらないけれども、rivalryではmodulationが起こるニューロンというものを見つけていました。今にして思えば刺激条件が上下の二通りしかないからと言えるでしょうが、今回のMaierのを見てから考えると、そもそもphysical conditionでのdirection tuningとambigous conditionでのdirection tuningはかならずしも同じではないんじゃないでしょうか。さらに、AsaadのNatureにもあったように、LIPまで行けばどう報告するか(刺激のcategorizationに依存する)にもさらに影響されるわけで。このphysicalとperceptualでのdirection tuningの比較ってだれかやった人はいないんでしょうか。Systematicだし、回路の議論をするのにも使えそうな、いい仕事になりそうな気がするのだけれど。
ご指摘の論文の二番目はLee, S-H., Blake, R. & Heeger, D. (in press) "Hierarchy of cortical responses underlying binocular rivalry."(PDF) Nature Neuroscienceですが、Heegerのラボからpreprintが落とせるようになってますね。リンクしておきました。じつはこの話、以前Heegerが生理研に来たときのトークで聞いたことあります。以前のエントリ(20060202)にも記載があって、こっそりコメントアウトして書いてあります(HTMLのソース参照)。もうpublishされたようなのでここに再録しておきますと、「binocular rivaltyの左右の切り替え自体はV1内で起こっているのだけれど、attentionが向いてないとそのような意識の(潜在的な)contentが実際の「見え」に反映しない、というかreadoutされてこない、とでもいう話になりそう。」ということでした。んで、この話自体はすっかり忘れていたのですが、なるほど、ドンピシャ関係ある話でした。これでV1のneuronal activity自体がconsciousnessのcontentに対応しているわけではない、というストーリーは補強されますね。私自身の意見としては、V1を通る信号(bottom-upかtop-downか両方か相互作用かはそれじたいが研究対象)自体は我々が体験しているようなconsciousnessには必要不可欠だけれども、V1のニューロン活動として(mappingの意味で)representしているものがNCCの主役ではないだろう(脳の各部位と環境とのネットワークとして考えた拡張版のNCCにおいても)、というものです。
Steve Macknikのbackward masking のレビュー、というのはProgress in Brain Research 2006の"Visual masking approaches to visual awareness"でしょうか。Abstract読むと後半はBRについても言及しているようですし。あいにくProgress in Brain Researchはうちではavailableでないのですが、この巻はほかにもPetra Soterigの"Blindsight, conscious vision, and the role of primary visual cortex"とかも入ってますので、入手して読んでおきたいと思います。ざっと考えて、maskingもtemporalにはズレているけどspatialには重なっているわけだし、本当によい系だろうか、とか思ったりもしますが。
ご紹介どうもありがとうございました。それではまた。


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