« スネオヘアー "a watercolor" | 最新のページに戻る | 脳科学メモ »

■ Neuron 10/14 Glimcher論文つづき

"Activity in Posterior Parietal Cortex Is Correlated with the Relative Subjective Desirability of Action." Michael C. Dorris and Paul W. Glimcher
実験データに戻ります。今日は行動データに関してまとめます。
前回書いたようにナッシュ均衡にあるときに被験者がriskyの選択をする比率はIによってほぼ決まり、対戦相手の行動自体では決まりません(均衡状態なので対戦相手の行動選択率も均衡にあって、inspectを選ぶ率が計算上p(inspect)=0.5になることがわかっているのですが、実際にはなってません:Figure.2のthin line参照)。これは被験者も対戦相手もヒトであるときですが、被験者がヒト、対戦相手がコンピューターのときおよび被験者がnonhuman primate、対戦相手がコンピューターのときも成り立ちます(figure.3A)。なお、コンピュータが対戦相手のときの行動選択のアルゴリズムにはシンプルな強化学習のルールを使ってます。つまり、被験者がriskyを選択する率p(risky)を推測するのにこれまでのp(risky)から現在の試行の結果がずれた分をp(risky)を変化させてやるわけです。
Expected utilityとexpected valueとの比較、もしくはナッシュ均衡とmatching lawとの比較、といった明示的な形での議論はじつは行動データにしかありません。Figure.3Bでp(risky)がたんにexpected value(reward probability*reward magnitude)による線形的な関数ではないことを示しています。それから、Figure.4Aで[choice probabilityのriskyとcertainとでの比]と[expected value(reward probability*reward magnitude)のriskyとcertainとでの比]をプロットするとslopeが1.32で1より大きい、ということを示しています(統計なし)。Figure.3BとFigure.4Aとは本質的に同じものを違ったやり方でプロットしているだけですので*1Figure.4Aだけを見てもらえば、これは両軸ともlogでプロットしていますので、このslopeが1より大きいということは単にreward valueに対して過剰に適応をしていることを示しており、6/29のコメント欄で私が書いたgeneralized matching lawでのovermatchingをしていることになることを示しているだけです。じっさいここでGlimcherはこの結果がmatching lawでも説明できてしまうことをほとんど認めつつも("It can be true that, in aggregate, behavior during these games appears similar to behavior in nonstrategic envoronments, but ...")、Figure.4Bの結果から被験者のtrial-by-trialのばらつきが対戦相手のローカルなばらつきによって影響を受けることを示して、matching lawで説明されるような静的な過程ではないと言い張ります("The observation that there was overmatching in the aggregate behavioral strategy, however, should not be read to suggest that the subjects necessarily used a stationary matching-type strategy during this dynamic conflict.")。しかしSugrue and Newsomeの論文はまさにそういったローカルなtrial-by-trialのばらつきもmatching lawで説明できるとしたものでした。このへんは読者が判断することですが、この勝負、Glimcherはまったく歯が立たなかったと思います。Glimcher論文はSugrue and Newsimeが出てなければどれもこれも新しかったけど、スピード競争に負けたがゆえにどんどんneuesがなくなって敗北した、と私は読みます(逆にもしGlimcher論文の方が早ければ、Sugrue and Newsome論文はかなり苦戦したことでしょう。この勝負はそういった命の取り合いであり、私はシュートであると見ています。ちなみにSugrue and Newsome論文はReceived 16 December 2003; accepted 22 April 2004でGlimcher論文はReceived 2 February 2004; accepted 2 September 2004。もちろんGlimcher論文はおそらくその前にNatureかScienceで一、二戦しているわけです)。
では電気生理データはどうか、それは明日つづきます。あと二回くらいで終了する予定。
*1:追記:Figure.3Bの方が真のexpected valueで、Figure.4Aのほうはさらにexpected valueにchoice probabilityを掛け算しているので、等価ではありませんでした。


お勧めエントリ


月別過去ログ