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■ Science Newsome論文つづき

もうちょっと核心に向かいましょう。月曜の朝がjournal clubなもんで。
このScience論文にもいろいろな問題はあると思いますが(叩いて埃の出ない論文はない)、私が重要なものと思うのは、(1) この論文がglobalなmatchingとlocalなmatchingとを明示的に比較するようになっていない、(2) matchingよりももっと簡便な説明変数があるのではないか、という点です。なお、以下の文章はこの論文がacceptされるべきかどうかにcriticalな論点と今後証拠が出てくれば十分であるものとが混ざっています。ご注意を。
(1) この論文がglobalなmatchingとlocalなmatchingとを明示的に比較するようになっていない。これはかなり意図的に回避している感じがありますが、そういうわけにはいきません。まず、behaviorですが、Fig.2にあるようにいくつかのmeasureを持ってきてlocal matching lawがよく行動を説明することを示しているわけですが、これはロジックが間違ってます。Globalなmatching lawが当てはまることはよくわかっているのですから、local matching lawはglobal matching lawでは説明できないようなfractuationを説明できていることを示さなければならないのです。ちょっとまどろっこしいですね、つまり、Fig.2でlocal matching lawで説明できている、としているところからgobal matching lawでも説明できる部分を差っ引いてやるべきなのです。それでも説明力があるときはじめて、local matching lawがglobal matching lawに加えて役に立つ説明として採用されるべきなのです。GLM的に考えてやりましょう。Fig.1の選択を従属変数Y(t)、incomeを説明変数X(t)とします。X(t)はgobal matching lawによるregressor X1(t) (Fig.1Cでの黒い直線)とlocal matching lawによるregressor X2(t) (Fig.1Cでの黒い曲線から黒い直線を差し引いたもの)とに分解できます。それでY(t) = a1*X1(t) + a2*X2(t) + a3*X1(t)*X2(t) というふうにモデルを組んでやることができます。これでcoefficient a1は有意なのはわかっているので、coefficient a2が本当に有意なのは検証してやればよいのです。Fig.1Cなんてチャンピオンデータなんですから、全てがこうだと信用するわけにはいきません。交互作用の項があるのは、global incomeが1:1と1:8とではlocal incomeの違いの選択への影響が変わりうるからです。長くなりました。なんにしろ、彼らはこういうことはやっていません。つまり、読者は彼らの言うlocal incomeというやつにはglobal incomeの影響が足し合わさっていることを忘れてはなりません。じつのところ、global matchingだけが成り立ち、localなfractuationはそのmatchingからの予測のエラーを最小化するような強化学習のパラダイムで考えた方が尤もらしいと思うのです。だからこそ、global matchingかlocal matchingか、という問題はnontrivialなはずなのです。
また、電気生理学的にも、local incomeのことだけ考えているという点には難点があるのは上記の通りですが、要するに話はとしては、LIPのactivityでglobal matchingを説明することはできなかったということです。だからlocalな方へ話を持っていこう持っていこうという流れにFig.2がなっているのです。これはつまり、(a) 非験者はglobal matchingなどしていない、local matchingだけ、(b) 行動としてはglobal matchingもしているんだけれどLIPはそれには関与していない、のどちらかであるのでしょうけれど、この問題を彼らは回避したのです。それはもちろん、(a)のようなことは言うのは行動分析学者の反感を引き起こすでしょうし、(b)のようなことを言うのはせっかくmatchingのことをやろうとしているのに狙うべき領野を間違えた、ということになるのですから。というわけでどっちでも彼らにとって都合が悪いのです。そして我々はそれを責めるべきです。つまり、ここでもglobalなmatchingとlocalなmatchingとの問題を回避した影響が出ているのです。実のところ彼らはglobal matchingなんていらないという立場でやっているのですが(local matchingさえあればglobal matchingはいらない、もしくはglobal matchingはlocal matchingの結果をglobalに眺めたものに過ぎない)。
また、すでにmmmmさんが6/22のコメント欄で指摘していますが、電気生理でtauを決め打ちしている点には問題があります。個々のまたはpopulationのニューロンのtauと行動のtauとが必ずしも一致している必要はないのですから。じっさい、この問題は以前にMTでのperceptual decision研究のときにも繰り返された問題でして、いろんな感度を持っているニューロンがあって、それらをどう統合して行動に結び付けているのか、という話になるのです。
(2) matchingよりももっと簡便な説明変数があるのではないか。絶対に検討しなければならないことは、今回の「matchingに関連したvalueのneural correlate」という言い方以外のもっとより簡便(parisimonious)な説明はないか、ということです。たとえば、attentionだけで説明できないか、ただのmatchingとは独立なdecisionの確信度みたいなものでは説明できないでしょうか。Control taskとmatching taskとでの違いとは、両者を比べるmatchingをしているかいないか、というよりはFig.4では二つのターゲットからのselectionをしているが、Fig.3のcontrol taskではselectionをしていない、という違いではないでしょうか。とくに、control taskではlocal incomeの違いはサッケードするターゲットを選択するのに役に立ちませんが、Fig.4のmatching taskではlocal incomeの違いがサッケードするターゲットを選択するのにcriticalな情報となっています。つまり私はこの論文で見つかったことの本質は、LIPニューロンはただ単にlocal incomeの比率のような量をコードしているのではなくて、これがdecision makingに関わるときにのみdecision variableとしてその情報がLIPで処理されている、このことだけではないかと考えるのです。そう考えてみるとやっぱりPlatt and Glimcherとの違いがいったいどの程度あるのか、という問題になります。また、Jeff SchallがFEFでさかんに研究したような複数のターゲットからのselection、というパラダイムと結び付けて考える価値があるような気がしてきました。
(2)についてまた違った言い方にしてみましょう。Matching lawは二つの間での選択だけではなくて、ある一つの行動をするかしないかという選択にも応用できます。ということは、Fig.3にあるようなコントロールタスクでもそういうmatching lawが効いているということになります。また、このコントロールタスクはターゲットが一つしかないVI強化スケジュールをやっていることになります。つまり、Fig.4のマッチングタスクとFig.3のコントロールタスクとの間でのcriticalな違いとは、どっちのターゲットを選ぶかのdecisionが要るか要らないか、という点です。この点において、Fig.3とFig.4との違いからPlatt and Glimcher論文とNewsome論文との比較をすると、decisionをするときにreward関連の情報があるとそれを加味したようなrepresentationをLIPがするという意味では両者は同じです。Fig.3のような結果に関してもPlatt and Glimcher論文でも同様なコントロール実験を持ってくればよいだけで、わざわざmatching lawを満たすような実験にする必要性はここまでではありません。よって、もうひとつ「Fig.4のマッチングタスクとFig.3のコントロールタスクとの間でのcriticalな違い」を持ってくる必要がありますが、それは上記の選択をしているか否かを選択行動理論的にパラフレーズすれば、並列強化スケジュールであるか単一強化スケジュールであるか、二つの選択でのmatching lawと行動するかしないかのmatching lawとの違い、ということになるでしょう。

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# mmmm

概ね同意です。Journal clubで新たな議論が出てきましたらお教え下さい。


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