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駒場学部講義2019「統合失調症、感覚運動随伴性、自由エネルギー原理」無事終了

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東大駒場の池上高志さん(大学院総合文化研究科 広域システム科学系)から依頼を受けて、例年6月あたりに大学院のオムニバス講義を一回担当しているのだけど、今年度の講義も無事終了しました。

講義スライド(画像及び未発表資料の削除をしたもの)をSpeaker Deckにアップロードしました。(20220822 SlideShareに引っ越し)

併せてレポート用の講義資料ページも最終アップデートを完了しました。


さてここから口調を変える。今年度の構成は、昨年の「統合失調症 + 自由エネルギー原理」の構成を踏襲しつつも、ここ最近のFEP再勉強の成果(ブログではこのあたり)を反映させてアップデートすることを目指してた。

順番についても、前回と同様、まず具体例として「統合失調症」について説明して、そこでベイズ脳の概念についても説明した上で、、そのあとでさらに数学的な詳細を「自由エネルギー原理」パートで行うというものを計画していた。

しかし、自由エネルギー原理の説明の方は、二項分布で、階層のないベイズを元にした単純な説明をしていて、いっぽうで統合失調症の説明のときには、ガウシアンでprecisionを考慮した上で、階層性や予測符号化を明示的に出す必要があって、じつはこちらのほうが複雑だということに気がついた。そういうわけで急遽順番をひっくり返したのが今回の構成というわけ。

やってみて気づいたけど、自由エネルギー原理の数学的詳細の難しいところを後半に持っていったら聞いている方がしんどいので、今回前に持っていったのは正解だった。

来年も依頼があるようなら、そのときは「エナクティビズム入門+自由エネルギー原理」という構成で行こうと思う。というのも、こんど8月に北海道サマーインスティチュートで「エナクティビズム入門一週間コース」"Introduction to Enactivism: Moving to Know, Knowing to Move"というのをやるので、そこでの準備と成果を反映させていこうというわけ。

そんなこんなで、毎年ちょっとずつ構成を変えながらアップデートしてきていて、私の頭の中もそれに併せて徐々にアップデートさせてきた。

講義のあとは池上さんと池上研の院生の方と夕食。毎年ここで話をするのが楽しみ。今回は大泉匡史さん(この4月から東大駒場に赴任)も参加して盛り上がった。大泉さんとは意識の理論としてのFEPのあり方について大激論(下のツイートの写真)。

フリストン自由エネルギーvsトノーニIIT!!! pic.twitter.com/YCrOZvQKxj

— takashi ikegami (@alltbl) June 19, 2019

結論としてはエナクティブで力学系的にFEPを突き詰めていったら、IIT的なネットワーク理論と近いところに収束しそうだなという話に。あと、IITは内在主義者的かつアンチ機能主義的なスタンスを取っていて、(エナクティブな)FEPは外在主義者かつ機能主義的になっている、ということかもしれないとあとで考えた。

話しながら考えたことをメモっておくと、FEP自体よりもそれの「方向づけ原理」としての役割を持つものが何かを探すことのほうが重要そうだし、Ashbyの必要多様性の法則のほうがfundamentalだなと思った。

あと自発発火が可能な空間を決めるように遷移してpriorとして働く(Luczak)のように、背景が内容を規定する(図と地の関係)というのが私にとって重要なのだとわかった。生成モデルp(背景)が推測qの意味を決定づけるのと同じように。

あと池上さんからのコメントで出たいくつかの論点。アトラクターの近くを回っている状況と、SOCにある脳の状況は違いすぎないか。力学系的ななめらかな意思決定ではない、断絶、ジャンプこそがだいじなのではないか。そして反実仮想にそれはあるか。動物に反実仮想はないのではないか。

それにたいする私の答えは、まずFEPの反実仮想はたんにまだ起こってない未来についての推測をしているという意味であって、Pearl的な意味での反実仮想になってない。Pearl的な意味での反実仮想を捉えるなら、未来のことを考えるよりも、過去のことを考えるほうがよい。つまり「後悔」(「あのとき別の行動をしていたら、結果は違っていただろうに」)のほうがいい。これについてはFEP徹底解説のどこかで書いておいたので、我が意を得たりという感じ。

動物の反実仮想についての私からのとっさの答えは、キュウリにブチ切れるフサオマキザルは、自分がもらえたかもしれないブドウを反実仮想していると言えないか、因果推論するラットは反実仮想していると言えないか、というもの。

あとで確認してみたけど、WikipediaのCounterfactual thinkingの項目を見る限り、大きくは外してなかった模様。

Inequity aversion(キュウリもらって怒るフサオマキザル)の話は、じつはマーモセットについてもNCNP一戸さんのところでやってる。自閉症モデルではInequity aversion がないというところまでわかってる:“Inequity aversion is observed in common marmosets but not in marmoset models of autism induced by prenatal exposure to valproic acid” Behav Brain Res. 2018

因果推論するラットのほうは澤さんの論文(詳しいことは以前のブログ記事で採り上げた)に加えて、近年でより直接的な論文があるのを知った:“Factual and Counterfactual Action-Outcome Mappings Control Choice between Goal-Directed Actions in Rats” Current Biology 2015

そんなこんなでわたしもいろいろ学ぶところが多かった。

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