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駒場学部講義2015の準備メモ(2015年5月版)

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今年の駒場講義(2015年6月10日)が近づいてきたのでそろそろ構成を考える。去年のハンドアウトはこちら。去年は両眼視野闘争と盲視からスタートして神経現象学と当事者研究でまとめるという方向性だったけど、今年は統合失調症の仕事が進んだのでそれを盛り込む。

いまの構想としては、前半は同じかんじ。両眼視野闘争からGoodale & Milnerと盲視の話に持って行って、腹側視覚経路と背側視覚経路の話で一旦まとめる。そこから盲視とサリエンシーの話をして、サリエンシーがベイジアンサプライズであることを説明してベイズ脳に持ってゆく。

そのあとで統合失調症について説明して、統合失調症のベイズ脳的説明(C Frith)を入れて、この考えがabberant saliece説と整合的であることを説明して、いまやってる仕事の話にまで持ってゆく。ここまで。

これだと連続性はあるのだけれども、半側空間無視の話が入らないのであまりよろしくない。本当はtake-home messageとして、盲視、半側空間無視、統合失調症を研究することでそれぞれ「知覚」「身体と空間」「agencyと現実感」という意識の解明に必須な要素にアプローチできるのではって話にしたいので。

半側空間無視の話をすることで注意の背側経路(LIP-FEF)と腹側経路(TPJ-VFC)の概念も導入して、統合失調症とサリエンスネットワーク(AI-ACC)まで入れると、脳内ネットワークのかなりの部分を抑えることができる。多次元レクチャーの文脈はこっちだった。今回はやらない。

とかいうことを考えて、統合失調症について今回の文脈(意識研究)のなかで最小限説明するべきことはなにかを考える。ここが今回の講義の準備としては必要になりそう。とりあえず図書館でいろいろ本借りてきた。「心をつくる」「幻聴と妄想の認知臨床心理学」「分裂病と人類」あと各種教科書。

統合失調症における意識経験という意味では「気づきの亢進」について以前ここで言及した:Aberrant salience仮説と潜在制止と主観的経験 ほんとは「自明性の喪失―分裂病の現象学」とか各種手記とかも探しておきたい。でも時間的にはクリスフリスの話をちゃんとスライドにする準備までとなりそう。


Cris Frithの論文を読んでいたら、統合失調症患者の主観的経験に関連してPeter Chadwick 1993が引用されていたがうちの施設からは取れないジャーナルだったので、代わりに単行本"Schizophrenia: The Positive Perspective. Explorations at the Outer Reaches of Human Experience (2nd edn)"を読もうと思ってBr. J. Psychiatryに掲載されたレビューを読んでみたら、開口一番”I wanted to like this book”だって。どうやら精神科医にはパーソナルに寄り過ぎてて不評な模様。

ベイズ脳的説明によると、統合失調症ではevidenceとpriorとのバランスがevidenceに寄っているため、確率的推論の場面でjumping-to-conclusionが起こるし、ラバーハンドイルージョンの効果が強いのは視覚と触覚の一致というevidenceが強いからだし、

逆にhollow maskイルージョンが効きにくいのは「鼻は出っ張っているもの」といったpriorが弱いから、ということになる。視覚サリエンシーの効果も、サリエンシーが「面は均一であるもの」といったpriorからのoutlierであるという意味で予測誤差であり、ベイズ的扱いからはKL(prior | posterior)というふうに取り扱うことができるという意味で、priorよりもevidenceに寄っていることの反映と捉えることができる。(PPIもMMNも同様。)

ああ、気づいたけど、scanapathが下がるとかはWM落ちるとかと同様下がる方向なので特異性がないんで、サリエンシー値が高くなるってのはそういう意味で大事に扱いたい。ラバーバンド錯覚が増大することよりもホロウマスク錯覚が効かないことのほうが特異性があるのと同様。


統合失調症の講義マテリアルづくりのための資料を探していて、ここを見つけた:Schizophrenia Block Course 2012 TNU Zurich これは素晴らしい。泣きながら一挙にダウンロードしました。

Abnormal Beliefs Updating in SZ これを見れば、latent inhibitionが下がることとサリエンシーが亢進することとは同じように扱えるのが分かる。トイモデル作って理解しておきたい。


駒場講義の準備。サリエンシーマップとpresenceの関係の議論についてもうちょっと詰めておきたいと思って、積んでた「指示、注意、意識 : Campbellの議論の問題点」を開いた。

ここで言及されているCampbellを探してみると、「視覚的注意に関するブール的地図理論」ってのが出てきて、それってサリエンシーマップのことじゃね?って思う。元ネタのHuang & Pashler Psychological review 2007(pdf)を開いてみると、Fig.4のところで「ビンゴ!」(<-映画でハッカーがパスワード当てたとき風)


「統合失調症」(医学書院)の52章を読んでいたら「…幻聴や妄想に似た経験は、精神科にかかったことのないいわゆる「健常者」も、高頻度で体験することが、多くの疫学調査で示されるようになった」ということが「ノーマライジング」の方策(当事者のスティグマを軽減する)として書いてあった。

ここでreferされていた論文はJ. van OsのPsychological Medicine (2009) これはpsychosis(精神症状)の経験について重要な資料となりそうだ。

J Van OsはDSM5に”Salience syndrome”という概念を入れようと提唱した人だけど(結果それはとりこまれなかった)、調べてみたら超大物だった:Google Scholar


トノーニ、マシミニの「意識はいつ生まれるのか」を入手した。俄然、いま作っている駒場講義スライドで統合情報理論について言及してみたくなったが、どうやっても入れこむことが出来ない。無理せず、統合失調症の方をちゃんと膨らませる方向で進める。明日のうちに目処がつくとよいのだけれど。


salience network (AI-ACC(-IFG))とventral attention network (rTPJ-rIFG)の関係だけど、Uddin 2015では重なっているか別ものかはまだ未確定としている。

両者が大きく関連していることはKucyi et al 2012とかを見るとよくわかる。

サリエンスネットワークではなくてcingulo-opercular networkっていう言い方でもっと広くlateral fissureのなかに折りたたまれたoperculum一帯を入れる言い方があることを知った。PNAS 2007とか。

TICS 2008 (pdf)とかを見ているとfronto-parietal (initial & adjust)とcingulo-opercular (set-maintenance)となっている。rsfMRI的に分かれるところまではかなり確立していて、それの機能的位置づけの解釈の問題というところか。

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