« JNS 6/15 | 最新のページに戻る | 木村研CM核論文 »

■ Science 6/17

Complementary Process to Response Bias in the Centromedian Nucleus of the Thalamus 木村研@京都府立医大より。
視床のCM核からのsingle-unitとmicrostimulation。Go / Nogo x Large reward / small rewardの組み合わせがブロックごとに変わる。
Large rewardのときよりもsmall rewardのほうがresponse latencyは遅くなるし、CM核のニューロン活動はsmall rewardの時の方がよく発火する。
CM核へのmicrostimulationでGo responseが遅くなるのだけれど、同じGo trialでもlarge rewardのときのほうがsmall rewardのときよりもmicrostimulationの効果が大きい。
というわけで、ようするにrewardが少なくて不本意でいやいや行動するときにCM核が活動するのだ、というわけです。Asahi.comでは「すし屋でトロを注文したら品切れで、しかたなく赤身を頼む」なんて表現をしてます。木村實先生は「期待通りに物事が進むことは少ない。ベストの選択肢が選べなくても、パニックに陥らず、次善の選択をするのは知的な行動だ。その脳のメカニズム解明の突破口になる」とコメントしてます。どうあれ、CM核が中脳ドパミン系とはresponse biasに関して違った役割を果たしている、というこの論文の主張は明確です。
2003年の名古屋での神経科学大会のときにこの話のポスターが出ていて、ファーストオーサーの方にいろいろ聞いた覚えがあります。そのときはmicrostimulationのデータは無かったのではないでしょうか。(追記:ラボのウェブサイトの説明を見る限り、アブストには載っていないけど発表はした様子)
関連する前報におなじファーストオーサーによるJNP '02 "Participation of the Thalamic CM-Pf Complex in Attentional Orienting" Takafumi Minamimoto and Minoru Kimura、それからJNP '01 "Neurons in the Thalamic CM-Pf Complex Supply Striatal Neurons With Information About Behaviorally Significant Sensory Events"があります。(ラボのウェブサイトに説明あり。)
木村實先生によるNeuroscience Research '04 "Monitoring and switching of cortico-basal ganglia loop functions by the thalamo-striatal system"のFig.2とFig.3が今回の論文のストーリーの下敷きになっているようです。Cortex->Striatum->GP/SNr->CM/Pf->Cortexというループがあって、Striatumはドパミン系(SNcとか)およびCM/Pf核からmodulationを受けます。つまり、Corticobasal ganglia loopsでのresponse biasのmodulationには中脳ドパミン系によるものと、CM/Pf核による相補的な過程とがある、というストーリーらしいです。CM/Pf核のもつ「相補的な過程」が、中脳ドパミン系がTD errorを出力するといった強化学習的枠組みに対してはどういう位置づけになるのか、というあたりが重要となるでしょう。TD errorのようなrewardの大小に対して中立的なものではなくて、rewardが少ないとき>多いとき、という極性を持っているわけですから。
Neuroscience Research '04ではJNP '02を元にして、salient eventの情報がCM/Pf核を通してresponse biasを変えるということを強調しているようですが、さいきんのRedgraveらによるSNcのドパミンニューロンが上丘から視覚情報を受け取っているという話(Science '05 "How Visual Stimuli Activate Dopaminergic Neurons at Short Latency"およびNature Neuroscience '03 "A direct projection from superior colliculus to substantia nigra for detecting salient visual events")とつきあわせると、SNcとCM/Pf核のどっちがStriatumにsalient eventの情報を持ってきているのか、というあたりを考えるのがおもしろいかもしれません。

コメントする (4)
# Striatumの人

CM-Pfは痛みの中継核でもあり、SalientなEventの情報といってもドーパミン系とは対極にあると思います。Redgraveらの主張と対比して考えると確かに面白いかなと思います。

# pooneil

>>Striatumの人
コメントありがとうございます。おお!「CM-Pfは痛みの中継核」なのですか。知りませんでした。言ってみれば、損失という「心の痛み」でもCM/Pfが活動してしまう、というわけですね。おもしろくしすぎでしょうか。

# mmmm

お久しぶりです。先日はお会いできず残念でしたが、お子様がお誕生とのこと、おめでとうございます。
さて、Minamimoto et al., 2005, Scienceですが、Thalamostriatal systemの役割について一つの魅力的な仮説を提出した点で面白い論文だと思いますし、CM核がそこで中核的な役割を果たしているという点にも同意できるのですが、この論文のみを読んだ当初、negative prediction errorをコードしているという以上のことを示せているかどうかに疑問が残りました。
が、Matsumoto et al., 2001, JNPで、Response biasとは無関係のPavlovian conditioning課題での応答を見ており、ここではCS+に対する応答とCS-に対する応答との間に差がないことを報告しています。これをコントロール実験だと思えば、確かにResponse biasが必要な課題遂行中に限って、CS- > CS+という顕著な傾向が出るようです。同じ細胞でこのコントロール実験をして比較結果を示すのがベストだったと思いますが、少なくともPavlovian conditioningでの以前の結果をきちんと論文に書いてそれとの違いをdiscussしてくれないと、CM核に詳しい読者以外からは、正当な評価を受け損ねる恐れがあると思いました。

# pooneil

どうもご無沙汰しております。おかげさまで、もう三人目です。毎晩三人の子供を風呂に入れてます。このあいだの出張はそういうわけでドタキャンとなってしまい、残念でした。次の機会は神経科学大会でしょうか。お話できるのを楽しみにしております。つづきは上の方に書きました。


お勧めエントリ


月別過去ログ