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■ Nature 5/27

"Object-based attention determines dominance in binocular rivalry."
両眼視野闘争(binocular rivalry)とは、[右眼と左眼のそれぞれに別々の絵を見せたときに、その見えは両者が混ざったようなものではなくて、右眼に呈示しているものと左眼に呈示しているものとが時間的に交互に現れる]、という現象だ。この見えの変化が起こっているときに、網膜上で処理されているものはまったく変わっていない。しかし大脳皮質のどっかで、この見えの変化に対応しているところがあるはずである。それが腹側視覚路(とくに側頭視覚連合野)であることがLogothetisによって明らかになった。つまり、顔を見たときに選択的に活動するニューロンを記録しながら、顔の写真と太陽の絵とかで両眼視野闘争の状態を作って報告させる。すると、顔が見えている報告しているときにのみその顔ニューロンは活動するのだった(PNAS '97 "The role of temporal cortical areas in perceptual organization."*1。またこの実験パラダイムはhuman fMRIへと移植され、Nancy Kanwisherがfusiform face areaでの顔への応答が両眼視野闘争での見えに時間的にロックしていることを示した("Binocular Rivalry and Visual Awareness in Human Extrastriate Cortex.")。以上、両眼視野闘争とそのneural correlateについて。
んでもって、それとはべつに両眼視野闘争のpsychophysicsはいろいろあって、なにによってその見えの切り替わり、つまり左右の入力の選択が起こっているか、ということがいろいろ議論されてきていた。たとえば、両眼視野闘争の状態で片方の視覚刺激をフラッシュさせると、そっちの方に見えが切り替わることがわかっている。この場合だったらおそらくabrupt onsetによるbottom-upのattentionが効いているのだろうと予想される。
というわけで今回の論文は両眼視野闘争とattentionについてのpsychophysicsだ。図1にあるように、ある方向に回転するランダムドットと逆に回転するランダムドットとが重ねあわされた刺激を使っている。これは最初の段階では両眼に呈示され、両眼視野闘争にはなっていない。この二つのランダムドットは重なり合っているから、このどちらかのランダムドットのグループへ注意を向けるのはspatial attentionではなくてobject-based attentionだ。このランダムドットのグループの片方は一瞬別の動きをしてまた戻る。このことで片方のランダムドットのグループにattentionが向けられる。それから片方のグループが右眼に、残りの方が左眼に呈示されて両眼視野闘争を引き起こす。するとその見えはattentionを向けられた方がそうでないほうよりもより多かった。つまり、両眼視野闘争はobject-based attentionによって影響を受ける。
つまり、ランダムドットがそろって同じ方向に回転するということがそのランダムドットのグループを一つのobjectとして捉える作用を持っており、そのことは両眼視野闘争の切り替えが起こっているプロセスと密接な関係を持っているということだ。じつはこのようなobjectの形成と両眼視野闘争との関係というのはすでに報告されており、著者らもreferしている。たとえば、両眼視野闘争で左右の眼に相補的な刺激パターンを呈示する。たとえば右眼にはパターンAB、左眼にはパターンB'A'を呈示して、右眼のパターンと左眼のパターンを組み合わせるとパターンAA'とBB'とが交互に見える、ってまどろっこしい。PNASのfull textが読める人はここのBを見てもらえばわかるでしょう。つまり、object / featureとしてのひとかたまりとして処理されたものが両眼視野闘争で見えたり見えなかったりする、ということだ。
著者はこの論文によって両眼視野闘争にattentionが影響を及ぼすかどうかという論争に終止符を打ったものと謳っている。これがこの論文がNatureに値する部分だ。よって、いままでの論争で本当に決着はついていなかったのか、今回の論文はattentionによる効果以外のもので説明できないか、というあたりについてcriticalに読むことが、この論文をjournal clubで取り上げる人にとっては重要であると見た、なんて勝手に宿題与えてみたりする(<-誰によ)。


*1:実際にはLogothetisの最初の報告はSTSでのmotion stimulusを使った両眼視野闘争(Science '89)、つづいてV1,V2,V4でのgratingを使った両眼視野闘争(Nature '96)があってから側頭連合野ニューロンでの形態を使った両眼視野闘争(PNAS '97)の順で発表されている。


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